土曜深夜に「ランク王国」という番組が放映されている。この番組の目玉に、渋谷で若い女性にアンケートした結果をランキングにして発表するというコーナーがある。テーマは毎週様々だ。好きな鍋料理、妹にしたい有名人、かっこいい会社などバラエティに飛んでいて楽しい。 もう半年以上前になると思うが、「一番嫌いな臭いは何か」というテーマでランキングが発表された。若い女性が嫌いな臭いのナンバーワンは?私は嫌な予感がした。あれがあるかもしれない。いや、あるに違いない。10位から順番に発表される。若い女性でなくても嫌いな臭いが並ぶ、納豆、香水、トイレ、足の裏などなど。だが、あれが出てこない。ついに2位まで発表された。残るは1位だけだ。まさか、あれか。 予想どおりと言ってしまえばそれまでだが、予想どおり一位は「オヤジの臭い」である。それも圧倒的な票数で一位である。発表の前に登場した女の子は、20前後で、色白、スッピンのとてもかわいい子であった。オヤジが一番好むタイプと言ってよい。その子がこんなことを言う。 質問:「一番嫌いな臭いは?」 回答:「オヤジの臭い」 質問:「オヤジが近くにくるのは許せない?」 回答:「許せない」 質問:「どれくらいまでなら許せる?」 回答:「1メートル、あ、違う、2メートルまで」 オヤジは若い女性が大好きである。その好きな相手に、「2メートル以内に近づくな」と言われているのだ。これがおばさんに言われるのならどうということはない。「お互い様だ。」と言い返せばそれですむ。だが、オヤジは若い女性に近づきたいのだ。そのために努力しているのだ。薄くなった髪を気にするのも、太目のウエストサイズを気にするのも、すべて、若い女性に気に入られたいからだ。 これではあんまりだと思うが、これが現実だ。オヤジは嫌われている。私も残念ながら正真正銘のオヤジであるが、私自身がオヤジは嫌いだ。会社にいるオヤジどもの人事権を握っていれば、全員若い女性と入れ替える。そして同僚から蔑まれる毎日を過ごすだろう。 オヤジが嫌われるのは、若さと新しさを根拠なくありがたがる現代の不健全な世相の反映という面もなくはない。嫌いな臭い=オヤジの臭いという回答も、若い女性のお約束という感じがしないでもない。だが、オヤジが嫌われるのには、ちゃんとしたわけがある。 (注)オヤジとは、通常、生後40年から60年までのヒト科のオス(中年男とも呼ぶ)を意味する。既婚か未婚か、子供があるかないかは関係ない。ただ、この年代の中年男がすべてオヤジというわけではない。ごく希だが、田村正和氏や長嶋茂雄氏のように、若者からも人気があるオヤジとは言えない者もいる。ノーベル賞の田中さんもオヤジではない。後述するが小泉首相もオヤジではないと思う。反対に、30代からオヤジになっている者もいるし、70過ぎても、オヤジから解脱できない者もいる。特に、政治家、大企業経営者、学者、マスコミ関係者に、いつまで経ってもオヤジ界から抜けられない者が多いように思う。 ■オヤジは嫌われているという現実を認識しない 蛇蠍のごとくオヤジは嫌われている。だが、その事実に気が付いていない。これでは嫌われる。 先日、某家電量販店でテレビを眺めていたら、ゾンビ映画の映像が流れた。その瞬間、2メートルほど先でテレビをみていた若い女性が「やだぁ、課長がたくさんいるぅ。」と怯えた声で小さく叫ぶと、その場に崩れ落ちてしまった。かわいそうに、ゾンビの群れをみたとたんに、課長の姿が脳裏に浮かび、それが増殖していく場景を想像してしまったに違いない。 オヤジは斯くも嫌われている。なのに、オヤジは事実を認識しようとしない。私の身のまわりにも、「自分は若い女性社員から人気がある。」、「若い女性の部下から信頼されている。」などと得意げに話す勘違いオヤジがよくいる。だが、実際は、彼女たちから、「疲れたとき、あの脂ぎった顔をみると吐き気がする。」、「知らない間に近づき、猫なで声で話し掛けてくるのでとても怖い。」、「次の人事であいつが異動しなかったら会社を辞める。」などと言われている。 ところが、それに気が付かないから、オヤジは傍若無人な振る舞いをして、ますます嫌われる。大部分のオヤジは、自分は、セクハラとは無縁だと思っているが、オヤジにとって当たり前の行動がすでにセクハラなのだ。オヤジ存在そのものがセクハラであると言っても過言ではない。 ある女性が「オヤジとアメリカはよく似ている。」と言っていた。たしかに、どちらも嫌われていることに気が付かない。そして、傍若無人なふるまいをしてますます嫌われる。ただ、アメリカは嫌われている反面、憧れの的でもある。反米的な中東諸国でもアメリカに行きたがる人は多い。それにひきかえ、オヤジは嫌われるだけで、憧れの的になるということは絶対にない。 ■オヤジは権力と金を握っている。 オヤジが権力を握っていると言うと、多くのオヤジは不服だろう。大多数のオヤジは、組織の中で上司と部下の間に挟まれて悪戦苦闘している。家に帰っても、家族から疎まれ、いる場所もない。昔は、「女、三界に家なし」と言われたものだが、いまでは、「オヤジ、三界に家なし」である。 とはいえ、政界、官界、財界、企業、テレビ討論会、どこを見回しても、権力を振るっているのは紛れもないオヤジである。当然金も握っている。 それに、組織の中間層として虐げられているオヤジも、よくよくみれば、長年の年功序列制度の恩恵で、仕事をしていない割には高い給料を貰っている。 オヤジ社員の仕事といえば、 ○上司にどうでもよいことを報告する、上司が重要な情報に気が付かないように情報操作をする ○営業活動だ、情報収集だと理屈をつけては、会社の金で、酒を飲み、ゴルフをし、マージャンをする の二つだけだ。不況の影響で交際費が大幅削減されている昨今では二番目の仕事はほとんどない。「ごますり」という重要な仕事があるではないかと言う人もいるが、そんなものは仕事ではない。一言で言えば、仕事をしないで金を貰っているのがオヤジだ。 要するに、なんだかんだ言っても、オヤジは権力と金を独占している。古来より、権力者、金持ちは民衆の敵だった。独裁国家では、民衆の不満は文学などで隠喩として捌け口を見出すしかないが、まがりなりにも、日本は民主国家だ。人々は権力や金を独占する者に対して、あからさまに嫌悪感を示すことができる。だから、オヤジは嫌われて当然だ。 ■オヤジの話は詰まらない オヤジギャグという慣用句からも分かるとおり、オヤジの話しはつまらないものの代表だ。オヤジの話しは、大体において ○自慢話 ○同僚と会社の悪口 ○自分のことを棚に上げた説教 など下らないものばかりだ。しかも、くどくどと長話しで要領をえない。権力と金にあかして、無理やり話しを聞かせるから始末が悪い。おばさんや若者たちの話しも大して面白くないが、彼女たちは、無理やり自分の話しを相手におしつけるだけの権力を持っていないので、被害はない。 ■オヤジを放置しておいてはならない このように、オヤジが嫌われるのには十分な理由がある。しかし、オヤジは権力と金を握っている。だから、嫌われてもしかたがない、というだけで済ましておくわけにはいかない。日本の構造改革の成否は、ひとえに、オヤジの構造改革ができるかどうかにかかっている。 オヤジは権力を行使することが出来るので、外部から改革することは困難だ。若い女性がいくらゾンビをみてオヤジを思い起こして卒倒しても、オヤジの改革は出来ない。オヤジが自覚をもって自己改革をしなければならない。だが、どうしたら、オヤジは自己改革をすることができるのだろうか。 小泉首相は、歴代の総理大臣の中では際立って支持率が高い。最近では首相就任当初と比較して支持率が落ちているが、それでも、歴代の首相と比較すれば極めて高い支持率を得ている。無策だとか、丸投げで自分は何もしないとか、オヤジたちからは非難されているが、女性の支持は根強い。オヤジたちは、「なぜ、あんな小泉首相が支持されるのか」と訝しく思っているようだが、理由は簡単だ。小泉さんはオヤジではない。だから、嫌われない。それは、前任のM首相と比較すれば一目瞭然だ。M前首相は、360度どっからみても完全無欠のオヤジだった。小泉さんは、貴乃花の相撲を観戦して、臆面もなく「感動した!」と絶叫する。国会答弁でも、しばしば若者のようにむきになり失言をする。そして、はにかんだよな笑顔を浮かべて「こんどは挑発に乗らないようにします。」などと発言する。小泉さんはオヤジらしくない、かわいい万年青年だ。田中さんや長嶋さんと合い通じるところがある。「オヤジは大嫌いだけど、小泉さんとなら一緒に飲みにいってもいいなぁ」と考える若い女性は少なくないはずだ。オヤジとしてはこれほどむかつくことはない。しかし、小泉さんの行動パターンには、自己改革を断行しようとする良識あるオヤジには参考になる点が多々ある。 (続く)⇒その2 |