☆ WINDOWSを理解する ☆

『WINDOWSはなぜ動くのか』 天野 司著 日経BP社 2002.10

 昨年夏刊行されて以来、この類の本としては異例の売れ行きを示している「プログラムはなぜ動くのか」シリーズの第二作目である。
 日頃からパソコンがどのように動いているのか疑問に思っている人、これから本格的にコンピュータの勉強を始めようと思っている人に、お奨めの本である。とくに、専門家を目指しているのではないが、知的好奇心にとみ、パソコンの原理を理解したいと思っている人には、格好の入門書である。

 WINDOWSの構造や機能を知らなくても、パソコンを使うことはできる。ワープロ、メーラー、ブラウザ、表計算など個別のソフトウエアの操作方法さえ習得すれば、パソコンは使える。エンジンの構造や材質をしらなくても車の運転ができるのと同じだ。知らなくても使えるからこそ、WINDOWSは爆発的に普及した。ディレクトリ構造やファイル管理の仕組みが分からないと使えないようなOSでは、こんなに普及するはずはない。分からなくても使えるというのは、ヒット商品の秘訣である。

 とはいえ、WINDOWSがどのように動いているのか気になる人は少なくないはずだ。これまでは、そういう人たちに相応しい本がなかった。大型書店で、コンピュータコーナーを探しても、専門家向けか、ノウハウ本がほとんどで、一般教養として、コンピュータを学ぶことができる適当な本がみつからなかった。
 この本は、OSの説明、WINDOWSの歴史から始めて、WINDOWSというOSがどのように動いているかということを、コンピュータの専門家、ソフトウエアの専門家でない一般のユーザにも分かるように懇切丁寧に教えてくれる。

 本書には、日常WINDOWSを使用する人が理解しておくべき基礎的なテーマが精選、網羅されている。取り上げられているテーマは次のようなものであり、一通り、理解すれば、日ごろ知らずに使ってきたWINDOWS画面の背後にあるものが見えてくるはずである。

同時に複数の作業ができるのは何故か。どのようなテクニックが使われているのか。
どうやって、デスクトップに複数のウィンドウを同時に描くことができるのか。ウィンドウ間の切り替えはどのように行なわれているのか。
新しい周辺機器が接続されたとき、どうやって、それを検出するのか。なぜ、ドライバソフトなるものが必要となるのか、それはどんな働きを持っているのか。
異なるプログラムが並行して処理を進めることができるのは何故か。そこでは、どのようなテクニックが使われているのか。
インターネット接続など、ネットワーク機能はどのように実現されているのか。

 この本のよいところは、読者の目線に合わせた説明がなされていることである。まず、質問形式で解説が始まる。科学や技術の本では、往々にして、読者は、と途中から何が論じられているのか分からなくなり、道に迷うことが多い。この本は、誰もが思いつくような質問を冒頭に掲げて、それを解説していくという形式をとっている。読者は、道に迷うことなく、どこで何をしているか、常に把握して先に進むことができる。必要があれば、前に遡り、読みなおすことも容易である。しかも、各設問に対する説明がちょうど手ごろな分量になるよう配慮されている。お陰で、通勤中や昼休みなどにも、気楽に読むことができる。使用される用語や図表も平易で、専門用語には丁寧な説明がつけられている。図表の配置、全体のレイアウトもよい。WINDOWSの技術を始めて勉強する人、ある程度の知識はあるがどうももう一つ理解できないという人には、WINDOWSを知るために最適である。

 ただし、専門家が、マニュアル代わりに使うことはできない。膨大なマニュアルの一部を取り出して、それを題材にして、WINDOWSとは何かを説明したのがこの本である。プログラム開発やコンピュータサイエンスの専門家を目指す人は、別のより高度な本への向かう必要がある。だが、このような人たちにも、入門編として役立つだろう。

 日経BP社の「なぜ動くのか」シリーズは、本書の他、「プログラムはなぜ動くのか。」と「ネットワークはなぜつながるのか。」の三冊から構成されている。(著者はそれぞれ異なる。)
 できることならば、三冊併せて読むことをお奨めする。三冊読破し、理解することができれば、ハード、ソフト、ネットワークというコンピュータの三大要素を一通り習得したことになる。
 もちろん、この三冊で、コンピュータのすべてがカバーされているわけではない。本格的に勉強したい人は、各分野のより高度な専門書を読むことが必要である。
 しかし、このシリーズに触発されて、コンピュータの原理に興味をもち、もっと深く勉強しようと考える人が出てくれば、著者達の目的は果たされたことになる。この本は教養書である。教養書は、完結することなく、次の読書を促すところにその本質がある。
井出 薫

(H14/11記)

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