☆ 「戦争支持率」という数字 ☆


森有人


 「実感がありませんが、戦地にいる兵士たちを思う気持ちがあるのかも」−。米国ワシントンDCに留学中の知人からのメールに、戦争支持率と実際のギャップについての印象が書かれてあった。イラク・バグダッド陥落後に、米国報道機関が公表した戦争支持率は7割を超え、武力行使前の3月上旬から10ポイント上昇。ブッシュ大統領、ラムズフェルド国防長官の支持率も、ともに70%という高い水準に維持している。

 米国各地に広がる反戦についての報道や、反戦に傾いた国際世論が伝えられる現状から見ても、米国の戦争支持率に不自然さを感じる。しかし、米国の報道・調査機関の世論調査は、日本に比べても精緻な手法を導入しているという。各種調査では、地区別サンプリングを実施し、固定電話を通じオペレーターが質問する。昼間の調査だと回答者層の高齢者比率が高くなり、世代バイアスが掛かるために、その上さらに年齢構成補正を施すという、手の込んだ調査の結果でもある。

 それでも、調査と実態のかい離は報道機関にとっても、益々頭の痛い問題になりつつある。その理由の一つが電話。携帯電話が普及する一方で、IP電話が浸透するにつれ、旧来の固定電話による調査名簿だけでは標本の信憑性が薄れる可能性が大きくなった。もうひとつは、設問と回答の関係。調査結果の詳細を見ると、戦争支持者7割の内訳は、「積極的に支持する」4割強、「この戦争が正しいかどうか判断し兼ねるが、支持する」は2割強。つまり、3割弱が、選択肢前半部分に込められた「戦争の可否」についての判断を保留にしている。この“浮動層的な支持層”は、様々な想いを巡らし回答したのではないか。出征兵士を持つ家族、負傷したイラク市民の痛々しい姿に同情を寄せた米国民・・。

 政権支持率、株価指数、成長率―。それぞれの数字が大なり小なりに、時々の政権と政策に影響を及ぼす。が、いずれも、社会の実態と大衆の声を、間接的に表現したものに過ぎない。数字の持つ意味を疑うべき・・そんな視点を、高い戦争支持率が示唆しているかもしれない。

(H15/4/11記)


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