☆ 地盤沈下する通信業界の行方を占うKDDIの行政訴訟 ☆

里見哲

 KDDIが、総務省の接続料金の値上げ決定に関して、行政訴訟を行うという報道がされている。電波という有限な資源分配を巡り、旧郵政省の指導とNTTの力関係で左右されていた通信行政の枠組みが遅まきながら大きく変わりつつあるようだ。旧郵政省の行政指導に頭の上がらなかった各既存通信会社も、ソフトバンクがしかけた破滅的競争に近いADSL値下げ競争や平成電電の固定発―携帯着通話料金の決定権の異議申し立てなどにより、総務省の決定にしたがっていては、にっちもさっちもいかない状態にまで追い込まれたということであろう。

 振り返ってみると旧郵政省の需給調整は、失敗の連続であった。地域ごと、サービスごとに行った通信行政のため、各地域別のポケットベル会社、PHS会社もちろん、国際通信会社も地域通信会社も今や消え去ろうとしている。この間、通信会社に天下った官僚は一体何人くらいいたのだろうか。「無駄者が夢のあと」という状況である。これだけの会社が消えていながら、責任をとるのは誰もいないのである。

 未だに各通信会社に残る官僚たちは、一体どのような感想を持っているのだろうか。訴訟相手の内部事情に精通していると思われ、張り切っているのだろうか。もちろん通信会社の体たらくは、時代の影響をもろに受けているという面も強いし、本当に責任を問われるのは、かつての経営者ということになるだろう。それでもかつて、事務次官や局長として通信行政を担い、各企業の経営者に天下った人たちの反省の言葉を聞いてみたいものだ。

 もしかするとインフレ・ターゲットという昔経済学を学んだものにとっては理解できない政策の一環として、接続料金値上げがあるということなのかもしれない。公益事業は、少なくともここ数年は、値下げのための努力は重ねてきていたはずである。かんぐってみれば、行政側は、今度は、通信会社が談合して、値上げ競争に励むことを期待しているのかもしれない。この夏電力不足が取りざたされているのも電気料金を値上げしたいのかもしれない。通信料金の場合、そもそも現在の接続料金水準の妥当性も明確になっているわけではない。いぜん不透明な政策決定の様相を呈しながら、通信業界全体の地盤沈下が進む中、KDDIの行政訴訟が、通信業界の地盤沈下流れを変えるものとなることを期待したいのだが。

(H15/6/27記)


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