☆ 国の威信とは何か? ☆

里見哲

 漁網にかかり浮上できずにいたロシアの潜水艇が、英国の救助隊により救出された。ロシア政府は自国での救出が不可能と判断し、米国、英国、日本に救助を要請した。かつて原潜クルクス号で118名が死亡し、非難を浴びたことが、今回の迅速な措置に結びついたのであろう。

 多くの独裁国家、軍事国家であれば、自国軍艦の救助を他国の軍隊に要請するという選択を、国の威信にかかわる、あるいは軍事機密などを理由にして、行わなかったのではないかと思われる。場合によっては事件そのものが秘密にされるだろう。今回のロシア政府の判断は、逆に国の威信を傷つけずにすんだものとみてもいいだろう。

 確かに、カムチャッカ沖でロシアの潜水艇が何をしていたのか、潜水母艦がいながらなぜ救助できなかったのか、公表が一日遅れたのはなぜか、などという疑問は残るが、自国の軍人の命を救うために、かつての仮想敵国に救助要請したことは評価に値するだろう。また最強の軍事力を誇る米国でも、最も近い日本でもなく、英国海軍が救出したという点も興味深い。さすがにかつて7つの海を支配し、現在もその存在感をしめす大英帝国である。

 国の威信のためと称し、命が失われた例は数えられないくらい多い。ドイツ第3帝国の栄光のため、危険を覚悟で運行していたヒンデンブルク号の最期もまたしかりである。スペースシャトルの事故もまた国の威信という問題と切り離せないであろう。記者会見でのNASA幹部の発言や表情に人間としての威信は感じられない。国の威信とは、自国他国を問わず一人一人の命を大切にすることにより得られるのだということを再確認したい。

(H17/8/11記)


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