里見哲
鳥インフルエンザを巡るテレビ局、新聞社、雑誌社の報道はまったく異常であった。鳥インフルエンザは、現在のところ日本においては、直接鳥から人に感染する可能性は極少ないというのが、学者たちの共通した見解である。マスコミにとって、これらの学者が「極少ない」と発言するのはどのような意味をもっているのか充分分かっているはずである。ましてや加熱処理されている焼鳥などを食べることによって感染する可能性など皆無といっても過言ではないだろう。 つまり、鳥インフルエンザは、現時点で脅威なのは、家禽や野鳥がこの病気で大量死してしまう可能性があるということであり、人が感染して死んでしまうということではない。移動禁止や、大量埋葬も鳥への感染を防ぐことが一義的な目的であり、人への直接的な脅威は現在のところ顕在化していない。このような状況で焼鳥屋の売上が10%以上減少している状況は、報道が正しく伝わっていないという面と行政や専門家のコメントが信用されていないという面の両面があるだろう。 最近、SARS、BSEなど、人体に脅威を与える事件が頻発し、また食品会社や学者などの信頼も低下しているなかにあっては、一般大衆が鳥インフルエンザに脅威を感じるのは当然といえば当然である。しかし、テレビ報道を中心とした各メディアは、事実を冷静に伝えず、あえてスキャンダラスに煽りたてているようにみえる。 もっとも良識あるマスコミと目されているNHKも同罪である。3月8日にカラスへの感染の事実が判明した日には、なんとタイトルバックに不吉に泣き叫ぶカラスが登場したのには目を疑った。ヒッチコックなみの演出である。サブリミナル効果に匹敵する手法である。3月9日には、TBSの筑紫哲也氏が、パニックになっては困る、冷静な判断をしなければならないともっともらしい発言をしていたが、冷静になるべきなのは、メディア側であろう。これでは自作自演の猿芝居である。「カラスの死骸を見つけたらどうすれば良いのか」という問合せが都庁に殺到するということは、報道の不正確さの証であろう。カラスを魔女に仕立てているのである。 幕末に「ええじゃないか」という集団ヒステリーが発生したという。現在のテレビ報道を中心としたマスコミの鳥インフルエンザ騒動をみていると、テレビ業界に集団ヒステリーが蔓延しつつあるではないかという気がしてならない。本当の危機は、鳥インフルエンザではなく、視聴率合戦に明け暮れるテレビ報道部門の集団ヒステリー現象ではないか。今や視聴者が注意するべきは、「やらせ」やサブリミナル効果だけではないようである。注意すべきは、鳥インフルエンザ以上に、魔女狩りを思わせるテレビ局の報道ぶりである。 |