中国における日本人死刑判決

里見哲

 中国から麻薬を密輸しようとして捕まり、死刑判決を受けた日本人がいる。報道されている内容が限られているので、はっきりと分からない面もあるが、仕事がなく、やむをえずやった仕事のようである。報酬は60万円、日本に暮らしていたのなら、とうてい死刑にはならない内容である。

 それぞれの国家には主権があり、当然尊重されるべきである。今回の死刑判決も主権の行使であり、政府間の調整を行う種類のものではないということだ。それはそうだろう。かつてのように領事裁判権があり、外国人は外国人の法律で裁くという時代ではないからだ。これは、日本人の平和ボケが顕在化した事件であるとも言えるだろう。

 しかし、この事件には割り切れないものが残るのも確かである。日本で盛んに行われている死刑廃止運動に携わっている人や人権団体、国際アムネスティなどはどのような活動を行っているのだろうか。普段人権を重視するとしているメディアの報道からも、この辺の活動がさっぱり見えてこない。もし、中国における死刑判決に意義を申し立てないような人権団体だとしたら、その立場が疑われるし、もし運動しているにもかかわらず報道されていないのなら、メディア側の姿勢が疑われるだろう。
 また、外国人犯罪の増加を憂い、厳罰を主張している人々は、一体何をしているのだろうか。殺人を犯した外国人がめったに死刑にはならないのに反し、麻薬の密輸で捕まった日本人が死刑判決を受けたことをどう考えているのだろうか。なぜ異議申し立てをしないのだろうか。

 誤解の無いように確認しておくが、情状酌量を求めて政府が交渉するべきだと主張しているわけではない。ただ、普段人権運動を行い、日本の死刑囚への情状酌量を訴えている人々が、この事件をどのように考えているかを知りたいだけだ。

 死刑といえば、通信事業を営む上で命より大切なお客さまの情報を外部に流出させてしまった孫正義氏は、かつて「ウィルスを作ったものは、死刑にするよう法律を制定すればいい」(『IT革命』朝日新聞社、2000年、P87)と語っていたが、ご自身をどのような厳罰に処されるおつもりなのであろうか。まさかとは思うが、ウィルスを作った人の命はともかく、ご自身の命だけは大切になさって欲しいものだ。

 おそらく、この麻薬密輸事件の背景には、取引を持ちかけた、より悪質な仕掛け人がいるはずだ。仕掛け人は、死刑判決の可能性も知った上で、安い報酬で、日本人を中国に送り込んだのではないか。より巨益を手にし、他人を死地に送り込むその仕掛け人こそ、厳罰に相応しい。中国との交換条件として、仕掛け人を中国の送るのが一番いい方法と思われるのだが。

(H16/3/1記)


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