☆ 現実主義の陥穽 ☆

井出薫

 「非武装中立で世界平和を」などと言うと、非現実、お花畑論者と冷笑される。ロシアのウクライナ侵攻、米国のベネズエラとイランへの軍事介入、中国の海洋進出、繰り返される北朝鮮のミサイル発射、世界各地で起きている地域紛争、絶えることのないテロなどを考えると、そう批判されるのもやむを得ない。確かに理想を説くだけでは問題の解決にはならない。社民党が消滅寸前まで追い込まれているのも、現実への処方箋を何ら示そうとせず、理想論を繰り返すだけだからだ。学者や評論家ならばそれでもよいかもしれない。理想を説く者がいて、それに耳を傾ける者がいてこそ社会は善くなる。しかし、現実世界の現実的諸問題へ対処しなくてはならない政治家や官僚はそうはいかない。具体的な問題を具体的に解決する方策を考案し実行する必要がある。政治家が現実に目を塞ぎ理想だけを追っていたのでは諸問題の解決は不可能になる。理想を掲げながらも現実に即した行動が政治家には求められる。

 だが、現代社会の最大の問題点は、理想を冷笑し極端な現実主義が蔓延っていることにある。その典型がトランプ米国大統領であり、プーチンロシア大統領だ。トランプはMAGAをスローガンとし、米国民のために働いていると自賛している。しかし、その行動をみれば、求めているのは米国民の幸福よりも彼自身の権力と名声であることは一目瞭然だ。同じことはプーチンにも当て嵌まるし、現実主義者と称される政治家に共通している。要するに、現実主義を徹底するとき、その者はミーイズム「私こそすべて!」に陥る。それはある意味必然だろう。なぜなら、私にとって「私」以上に現実的な存在はないからだ。とことん現実主義に徹すれば、この最も現実的な存在である「私」第一主義になる。

 現実を考慮しない理想主義は脆く幻想に終わる。しかし、理想を失った現実主義は徹底的な利己主義に陥り世界を混乱させ、崩壊の危機を招く。理想と現実の両方を併せ持つことの重要性を決して忘れてはならない。




(2026/3/17記)


[ Back ]



Copyright(c) 2003 IDEA-MOO All Rights Reserved.