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井出薫
数カ月前までは日銀が年内に政策金利を0.75%に引き上げるという見方が強かった。しかし、7〜9月期のGDPが市場予測よりも良かったとはいえ前期比でマイナスになったこともあり、年内利上げが実施されるか微妙になっている。 今年に入り消費者物価指数の上昇率は3%前後で推移しており、インフレ目標の2%を上回る状況が続いている。日銀の金融政策決定会合の委員からも政策金利の早期引き上げを求める意見が強まっている。 インフレが高じた場合の対処は利上げが定石と言える。だが、それはバブル崩壊以前の話しで、長くデフレが続き経済が低迷してきた日本ではそのまま通用する論理ではない。高度成長期、安定成長期ならば、景気が上向き消費が活性化することでインフレが起きる。景気が良くなり消費が活性化し需要が増えれば供給がそれに追い付かず基本的に需要>供給となりインフレになる。それに合わせて賃金も上がる。インフレは軽度であれば好景気の徴となる。だがインフレ率が5%を超えるような状況になれば話しは変わってくる。インフレ率が5%でも賃金上昇率が6%以上ならば実質賃金は上がる。しかし、全ての者の賃金上昇率が6%を超える訳ではなく実質賃金が下落する者が出てくる。耐久消費財は実質賃金が上がっても一度購入すれば再購入するのは先になる。土地家屋を毎年購入する者など余程の金持ちでない限り存在しない。自動車も毎年買い替える者はほとんどいない。パソコンやスマホでも3年程度は使う。だから、いずれ消費の勢いは鈍る。そうなると企業は在庫を抱え経営が悪化する。また物価が上がり過ぎると輸入品が価格的に優位となり国内企業の業績を圧迫する。だからインフレ率が限度を超えた場合にはインフレ対策が不可欠になる。そして需要増によるディマンドプルインフレの場合は利上げが対策の第一選択肢となる。しかし現在の日本経済はディマンドプルインフレが起きている状況とは言い難い。需要>供給は需要が伸びていなくても供給不足でも発生する。欧州各国はロシアのウクライナ侵攻に対する経済制裁でロシアからの石油・天然ガス供給が断たれたことで高インフレが発生した。 欧州各国は定石通り金利の引き上げで対処し、現在は経済制裁発動当初よりはインフレは沈静化している。とは言え、金利の引き上げが功を奏したというよりも、石油や天然ガスの供給元を多角化したことで沈静化したという面が強い。一方で金利の引き上げは経済成長を鈍化させ国民生活に悪影響を与えている。 日本でも利上げがインフレ対策としてどこまで有効か分からない。利上げによる景気悪化の影響の方が大きくなる可能性がある。積極財政の高市政権の下、経済成長の実現を優先する政府と、インフレ対策を優先する日銀との間で政策に齟齬が生じる恐れもある。 しかしながら、利上げを見送ることになれば海外との金利差で円安が進行し、輸入品価格の高騰でインフレが拡大する可能性がある。また財政悪化懸念から円の通貨信用が下落し国債の金利が高騰する危険性もある。 いずれにしろ、低成長、人口減少、少子高齢化による社会保障費の急増という困難な局面にある日本経済において、利上げの是非を判断することは容易ではない。 了
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