☆ 財政均衡論からの脱却を ☆

井出薫

 石破首相は「(野党は)受けの良いことばかり言うが、受けの悪いことでもやらなければならないことがある」と言う。政権担当者として野党のように国民受けすることばかり言っている訳にはいかないことは分かる。しかし、石破が言う受けの悪いこととは何か。財政収支改善のために増税し社会保障費を削ることではないのか。そのようなことは受けが良いか悪いかではなく、国民にとって本当に悪いことで日本の未来を脅かす。

 野党でも国民民主とれいわが支持を伸ばす一方で立憲民主が支持を失い国民民主に支持率で抜かれている。特に20代、30代では立憲民主の支持率は極めて低い。立憲民主が低迷するのは野田代表が石破と同じ財政収支を重視する立場を取り国民民主やれいわのような減税策を打ち出せないからだ。自民も立憲民主もトップが財政均衡論に縛られ国民の支持を得られない。

 石破も野田も財政赤字が悪であると錯覚している。財政赤字の積み重ねの果てには破局が待っていると信じている。だが金本位制は遥か過去であり現代の管理通貨制度の下では財政赤字は(貿易赤字が必ずしも悪いことではないように)必ずしも悪いことではない。円で国債を発行している限り債務不履行は起きない。マネーストックがM1でも1千兆円を超えている日本の市場で、20や30兆円の財政赤字くらい大した影響はない。それで高度なインフレが起きることなどない。バブル崩壊以降の30年がそれを立証している。

 戦前のように戦費調達のために国債を乱発すれば、たくさんの人が死に、たくさんの人を殺し、経済が破綻し国が崩壊する。選挙目当てで政治家が大盤振る舞いをすれば無駄な物がたくさんできて環境を破壊し、時代遅れの技術やサービスが生き残りイノベーションを阻害する。だから財政を拡大すればよいというものではない。

 だが、急速に高齢化が進む日本では社会保障費の増大は避けられない。社会保障が充実していればこそ国民は安心して暮らすことができ消費も活発になる。財政赤字を盾に増税や社会保障費を減らすことばかり考えていれば、国民は不安に駆られ消費せず貯蓄する。若者は未来への希望を失う。若者が自民と立憲民主を支持しないのは当たり前と言える。

 人々の安心感と活力を取り戻し、科学技術を発展させ経済成長を実現するには、社会保障費、教育費、研究開発費、成長分野への投資、インフラ整備などに積極的に財政出動する必要がある。また消費を活性化するには国民民主が言う通り手取り収入を増やさなくてはならない。そのためには消費者減税が欠かせない。財政赤字が拡大してでも積極的な(ただし節度をもった)財政出動と減税を実行するべきで、実際それを実行し財政赤字が一時的に拡大してもマイナスの影響は少なくプラスの影響が多い。日本経済の課題は財政赤字ではなく低成長にある。低成長だからこそ税収が伸びず財政赤字が膨らむ。

 石破も野田も筆者よりは2歳ほど若いが、同世代に属する。筆者の世代は子ども時代、財政収支の赤字はインフレを加速するから望ましくないと習い、その教えが頭にこびりついている。だが、それはバブル崩壊前の高度成長期と安定成長期に通用する話で、今は状況が大きく変わっている。二人とも自分たちを縛る財政均衡というドグマに気付き政策を考え直す必要がある。国民民主の178万円案に同意し、れいわの消費税廃止案を端から否定するのではなく効果と影響を多角的に検討することが望まれる。財政均衡論から脱却することで長期的に見れば経済成長が実現し財政を安定させることになる。


(2025/3/16記)


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