☆ 情けないぞ、日本 ☆

井出薫

 リベラル勢力も含めて石破首相の訪米はおおむね成功だったと好意的に受け止められている。しかし、筆者には、石破首相がトランプ大統領のご機嫌伺いに出かけ、トランプ大統領もご機嫌だったということに過ぎない、としか思えない。

 地球温暖化対策は喫緊の課題でありパリ協定が必要不可欠な国際協定であることは日本政府も十分に承知している。ならばなぜ石破はトランプに対して「パリ協定からの離脱は再考すべきだ」と訴えなかったのか。「米国は世界一の科学技術力・研究開発力を持ち、それを地球規模の環境問題解決に活かすことができる。日本を含め世界中が期待している。それは米国内の雇用創出と海外からの投資拡大に繋がる。もちろん日本も積極的に投資する」と説得することもできた。もちろん、それにトランプが同意するとは思い難い。ご機嫌斜めになるかもしれない。しかし、言うべきことを言えないのでは話にならない。

 米国のWHOからの脱退も同じことが言える。世界の人々の健康を増進し、パンデミックを未然に防ぎ、パンデミックが発生した場合に被害を最小限に抑えるためにはWHOの存在が欠かせない。そしてWHOに米国が加わっているかいないかで、その成果は大きく異なる。拠出金の負担割合や中国寄りの姿勢などに不満があるのであればWHOの会合でそれを訴え改善を求めることができる。石破は米国がWHOに継続して参加することを求め、改善要求には日本が米国を全面的に支援すると伝えることができた。だが、それもしていない。

 トランプの悪いところは米国第一主義にあるのではない。どこの国の首脳も自国第一主義を取る。自国第一主義など当たり前のことでしかない。日本の首相が日本より中国や韓国を優先したら日本国民の怒りを買い、その座を失う。トランプの悪いところは国際協調の重要性を軽視していることにある。地球温暖化、パンデミック、貧困、世界各地で頻発する紛争やテロとそれに伴う難民の増加、これらの問題すべてが国際協調なくして解決は不可能であり、また自国第一主義をとっても米国自身がその影響を免れることはできない。パリ協定から離脱しても米国の気温は上昇する。WHOから脱退してもパンデミックは米国にも必ず拡大する。それを石破は喧嘩してでもトランプに訴えるべきだった。

 石破トランプ会合が明らかにしたことは、米国と日本は対等な関係にはなく、日本自身が対等な関係になろうとしていないということだ。野党や報道、そして言論界までもがそれを黙認している。左派は日頃自民党の対米追従政策を批判するのにトランプという型破りの大統領が登場すると途端に借りてきた猫になる。右派は現行憲法は米国の押し付け憲法だなどと言いながら米国の核の傘にすがる。それで本当によいのだろうか。日本が人口数百万、領土は狭くめぼしい産業がない貧しい国ならばそれも致し方ない。だが、日本は人口1億2千万、GDP世界4位の大国の一つなのだ。相手がトランプであれ、習近平であれ、プーチンであれ、主張すべきことは主張する必要があり、その力もある。もしそんな面倒なことはしたくない、今のままが良いというのであれば、日本はトランプにお願いするべきだろう。「カナダではなく日本を米国の51番目の州にしてほしい」と。確かにそれが実現すれば、ロシア、中国、北朝鮮から攻撃を受ける心配はなくなる。「我が国は世界一強い国だ」と自慢することもできる。ただし日本は世界の笑いものになる。


(2025/2/11記)


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