井出薫
地球温暖化対策だが、各国の思惑が異なり国際協調が思うように進まない。COP29も表向きは画期的な成果があったと広報しているが、対策に大きな前進があったとは言い難い。パリ協定からの脱退を表明しているトランプ新大統領の動向も懸念材料になる。さらに生成AIの普及が電力需要の増加をもたらしており温暖化への影響が危惧されている。 学習など情報処理は情報の乱雑さを減らす。言い換えると情報論的なエントロピーを下げる。だが、エントロピーは基本的には増大するから、情報処理に伴うエントロピーの減少をどこかで相殺しなくてはならない。それが電力の消費だ。電力が消費され廃熱となることで熱力学的エントロピーが増大する。増大分は減少分を上回る。これで物理法則と辻褄が合う。生成AIは膨大な量の学習(つまり情報処理)を絶えず行っている。そのために膨大な量の電力が必要となり廃熱も大きい。さらに廃熱による素子や設備室の温度上昇を防ぐために強力な冷房装置が必要となるが、これも大量の電力を消費する。つまり、同じ技術を使っている限り、生成AIやビッグデータ処理が普及するにつれて電力消費量は増えていく。 電力を100%再生可能エネルギーで生みだすことができれば温暖化への影響は小さくなる。だが太陽光発電も風力発電も欠点がある。太陽から地球に降り注ぐエネルギーは全体としては膨大だが、単位面積当たりの量はさほど多くない。だからこそ陸上で生物が生きていける。そのため太陽光発電で火力発電を代替するには広い面積が必要となる(風力も基本的に太陽光エネルギーから生まれる)。それは日本のように山脈が多く人口密度も高い地域では大きな難点となる。炭素吸収源である森林を伐採して太陽光パネルを置いたのでは温室効果ガス削減効果は激減する。自然環境も破壊する。太陽光も風力も時間帯、天候、季節により出力が大きく変動する。蓄電池に充電することで、ある程度は対応できるが限界がある。それゆえ安定電源が必要となるが、第一候補の原子力発電は高濃度放射性廃棄物の処理が難しく持続可能とは言えない。 それゆえ、温暖化対策の成否は消費電力の大幅削減を実現できるか否かに掛かっている。消費電力を大幅に削減できれば一部で火力発電を使っても、緑化促進、二酸化炭素回収・再利用技術の確立などにより、実質炭素排出量ゼロを実現することが期待できる。ただし、列車や自動車のように電力から運動エネルギーを生み出す必要がある機械は消費電力削減には限界がある。 温暖化対策には、AIなど情報関連で大幅な消費電力削減技術を確立し、動力源として電力を使用する自動車などの使用を制限し、二酸化炭素回収・再利用技術を確立する必要がある。ただし、技術的に容易ではなく、自動車などの使用制限は市民から強い反発があると予想される。だが、これら困難を克服しないと温暖化は阻止できない。 了
|