井出薫
来年、米国ではトランプ大統領が再登場する。米国は内政外交とも大きく変わる。世界中で戦々恐々としている者が少なくない。しかし、トランプも4年後は退任する。いかにトランプと言えど、憲法を改正して4年間任期を延長し、8年間(通算12年間)大統領の座に居座るつもりはないだろう。また、それを米国民が認めるはずもない。そこが、国のトップが事実上の終身制になりかねないロシアや中国とは異なる。 だから心配することはないという考えがある。トランプは温暖化対策に消極的で、そもそも温暖化説そのものに懐疑的と言われる。だが、トランプ政権下での4年間にも地球の温暖化は進む。たとえトランプの後任がトランプの政策を継承しても、いずれは温暖化対策が不可欠であることを認めざるを得なくなる。地球史的な観点からみれば4年という年月はほんの一瞬に過ぎない。急速に温暖化が進んでいるとはいえ、そのペースは最高で100年間で4乃至5度であり、米国一国が4年間温暖化を無視したくらいでは大勢に影響はない。米国は高い科学技術力を有し、トランプ以後に広く米国民の間で温暖化対策の必要性が認識されれば、一挙に温暖化対策が進むことも期待できる。トランプはワクチン懐疑論など科学技術を軽視する傾向が強いと言われるが、これも4年の間であれば大きな影響はない。人々の一番の関心事である経済でも、いかな米国と言えど、世界経済から孤立することは不可能で、結局のところは世界経済と折り合いをつけなくてはならなくなる。トランプは基本的にリアリストであり、世界経済の混乱が米国経済にマイナスであることは認識している。いずれにしろ、4年はあっという間に過ぎ新しい体制が生まれる。 一方で、そのような楽観論は正しくないという考えもある。外交政策の転換でウクライナやガザの住民に多大な影響が出る。また、トランプはNATOや日米安保などの現行の安全保障体制が米国の利益に合致していないと考えており、大幅な見直しを行う可能性がある。そうなれば、世界の体制は大きく変わる。温暖化も4年など大した期間ではないとは言えず、米国以外の国でも米国に倣い経済優先で化石燃料の積極的な使用に動き出せば温暖化対策に致命的な打撃を与える。化石燃料の使用制限を撤廃あるいは大幅緩和したら、それを元に戻すことは、経済に悪影響が出るため人々の抵抗が強く極めて難しい。対策が必要であることが分かっていながら、対策が取れず、地球環境がどんどん悪化し人類の存続すら危ぶまれるという最悪の事態も想定される。4年という年月は世界を大きく変えるのに十分な時間だとも言える。事実、日本は太平洋戦争の4年で大きく変貌した。 4年は長いようで短く、短いようで長い。筆者はどちらかと言うと長いと考えた方が無難だと思う。いずれにしろ、後世の歴史家たちが「あの4年間が致命的だった」と言うようにならないことを祈る。そして、そのためには私たち自身が状況を冷静に観察・分析し何ができるか考える必要がある。 了
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