☆ 共産党に望む ☆

井出薫

 組織票を持つ共産党は投票率が下がるほど有利だと言われていた時代があった。だが、今回の衆院選では投票率が低かったにも拘わらず議席を減らした。筆者が暮らす選挙区では自民党と立憲民主党の候補者の争いで自民が辛勝したが、共産党と参政党も候補者を立てていた。そして僅差だが3位は共産党ではなく参政党の候補者だった。左派が強いと言われた地区だったのに参政党に共産党は負けた。共産党の退潮は明らかだ。

 綱領と党規約をみると共産党が依然として科学的社会主義と民主集中制の党であることが分かる。かつて共産党はユーロコミュニズム、特にその旗手と言われたイタリア共産党に注目していた。ユーロコミュニズムは教条的なマルクス主義からの脱却を目指し、暴力革命、プロレタリア独裁、民主集中制、分派禁止などを放棄した。イタリア共産党はその後、路線対立から解党したが、イタリア共産党出身のナポリターノが2006年から8年8か月大統領を務めるなどイタリア政界に大きな足跡を残し、今でもその末裔たちが大きな影響力を有している。

 ところが、日本の共産党は「マルクス・レーニン主義」、「暴力革命」、「プロレタリア独裁」という文言を綱領から削除したものの、相変わらず伝統的なマルクス主義=科学的社会主義に固執している。また党規約は民主集中制を規定している。  民主集中制とはおおよそ次のような体制を意味する。党員は中央および地方の党大会の議論に参加し意見を述べることができる(その意味で民主制)。だが中央委員会、実質その中核である幹部会が決定した組織と運動方針に厳格に従う義務を負う。党の了解なく党への批判を公表したり、分派活動をしたりすることは厳しく禁じられる。規約を破った者は処分される。昨年、党首の公選制を主張する著作を出版した党員が除名され、左派的なメディアや知識人も含め多くの者が共産党を批判した。しかし、民主集中制の原則からすると除名は必要な措置だった。

 戦前の日本のように、共産党が非合法化され弾圧されていた時代には民主集中制は不可欠だった。党中央の決定に従わない者が出れば特高警察に付け込まれ党員が逮捕され拷問される。共産党員で名作『蟹工船』の作者、小林多喜二も共産党青年組織に潜り込んでいた特高のスパイに嵌められ逮捕され虐殺された。まだ29歳だった。だから、非合法化され弾圧されている共産党にとって科学的社会主義=マルクス主義を堅持し、民主集中制の下に一枚岩の活動をすることは不可避の要件だった。

 だが今は違う。共産党は合法化され自由に政治活動できる。今でも共産党員が就職や組織内での昇進などで不利な扱いを受けることはある。だが共産党員であることを理由に解雇されたり過酷な労働環境に置かれたりすることはない。もし、そのようなことがあっても裁判所に訴えれば勝てる。もはや、マルクス主義を金科玉条として守り、民主集中制のような独裁的体制を維持する必要はない。

 共産党は科学的社会主義を相対化し民主集中制を放棄する必要がある。マルクス主義者であろうとなかろうと、社会的経済的弱者を守り、社会的公正を実現し、すべての者が等しく豊かで幸福に暮らせる社会を目指す者であれば誰でも自由に党員になることができ、自由に議論ができ、自由に自分の意見を公表できる体制を作る必要がある。そうすれば共産党は広く市民の支持を得られる政党になれるだろう。そうでなければ党勢回復は望めない。


(2024/11/1記)


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