井出薫
8月14日、岸田首相が自民党総裁選に立候補しない旨を表明した。9月で岸田内閣は終わるが、3年間の岸田首相をどう評価したらよいだろうか。 統一教会問題、政治資金パーティー券問題、相次ぐ閣僚等の不祥事、ロシアのウクライナ侵攻など岸田首相を巡る国内外の情勢は厳しく不運な面はあった。だが岸田首相は内政も外交もこれと言った功績がない。就任早々「新しい資本主義」なる旗印を掲げたが内容は乏しかった。大幅な賃上げを実現したと言いたいかもしれないが、ロシアのウクライナ侵攻で生じた世界的な物価高を背景に、賃上げを渋ってきた経営層が漸く重い腰を上げたというのが実情で岸田首相の功績とは言い難い。統一教会に解散命令を出したとは言え、霊感商法や宗教二世など被害者への救済は十分に行われていない。党内の反発を抑えて政治資金規正法の改正を実現したことは評価できるが、改正規正法の実効性に疑問が残る。外交では対米追従に終始し、日本の将来にとって重要な中国との関係改善が実現していない。北朝鮮の拉致問題も進展していない。ウクライナ問題でもガザ地区問題でも日本の存在感は薄い。人の話しをよく聞くことが特徴と自己分析していたが、広く市民の声に耳を傾けようとしなかった。防衛費増強や少子化対策に関連して増税を唱えた時も、市民の反発や疑念の声に真摯に耳を傾けようとしない。だから増税メガネなどと揶揄されることになった。人事も稚拙だった。不祥事を起こした閣僚の罷免が遅れ非難を浴びた。経験の乏しい長男を首相秘書官に起用、危惧された通り不祥事が起きて罷免せざるを得なくなるなど茶番を演じた。総じて岸田首相は大した功績のない凡庸な首相、歴代首相の中でも下位に位置する首相に終わったと評価せざるを得ない。 一方、統一教会、政治資金パーティー券など岸田首相の下で露呈した多くの問題は岸田首相本人の問題ではなく自民党の問題であることを忘れてはならない。岸田首相が凡庸な首相に終わったのは自民党の責任でもある。自民党が真剣に変わる努力をしなければ誰が後継になっても岸田首相と同じ運命を歩むことになる。 自民党だけではなく公明党や野党にも改善すべき課題がある。公明党は平和と人権を表看板に自民党の暴走を防ぐ役割を果たしてきたと言うが、第二次安倍内閣以降はすっかり自民党に取り込まれ自主性はほとんどなくなった。野党は共闘が進まず自民党を追い詰めることができない。次の衆院選でたとえ自公が過半数割れしたとしても、野党連立政権ができる可能性は低い。日本維新の会又は国民民主党が自公と連立政権を組む可能性の方が高い。だから自民党の支持率が下がっても無党派層が増えるだけで野党各党の支持率が上がらない。 岸田首相は、格差拡大、少子高齢化、デジタル化や環境対策の遅れ、技術力の低下など課題は分かっているのに解決策が見いだせない現代日本の象徴であったとも言える。岸田首相の評価は現代日本の評価でもある。 了
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