☆ 選挙制度を考える ☆

井出薫

 今、衆議院議員総選挙を実施したら、どうなるだろう。岸田内閣の支持率は第二次安倍内閣以降最低、自民党の支持率も下がっている。このような時期に総選挙をしたら自民党の大敗、政権交代が起きると予想する者もいるかもしれない。しかし、そうはならず、自公で過半数を獲得して自公政権が続く可能性が高い。

 そう考える理由は色々ある。野党各党の支持率が上がっていない、野党第一党の座を競う立憲民主党と日本維新の会で政策や政治思想が大きく異なり野党連携が進んでいない等が理由として挙げられる。そのため、選挙に突入しても、野党候補の一本化ができず、僅差で自民党候補が当選する選挙区が多数を占め、自民党が議席を減らしても自公で過半数を維持する。さらに選挙前に自民党総裁・首相を交代することで政権維持の可能性はさらに高くなる。筆者はこう予想している。

 各種世論調査の結果から推測すると、過半数を超える国民が自民党に不信感を抱き批判票を投じたいと考えている。だが、投票先が分かれてしまう。立憲、維新、共産、国民、れいわと複数の候補に票が分かれ、自民の候補に及ばない。要するに現行の選挙制度では批判票が結果に反映されない。

 このような状況はこの先も長く続くことが予想される。何が起きても政権の座を失う恐れはないと思えば、いずれ国民の関心は薄れるから嵐が過ぎるのを待てばよいという安直な思考から脱却できず政治改革も進まない。この状況を変えるには、批判票が可能な限り反映される選挙制度が必要になる。一つの案は「この人の当選だけは許さない」というマイナス票を投じることができるようにすることだ。だが有名な候補ほどマイナス票が多くなるから、この制度は適当ではない。そこで、小選挙区では有効投票の過半数を占める候補者がいなければ1位と2位で決選投票をすることを提案したい。第一回の投票では、各政党が候補を立てる。自民(または公明)、立憲、維新、共産、その他の政党、それぞれが自由に候補を立てる。結果、第一回投票では多くの選挙区で自民の候補が1位になる。だが、決選投票では行方は分からない。自民党への批判が強まっている状況では、自民候補以外に投票した選挙民がこぞって2位候補に投票し逆転することが十分に考えられる。これにより批判票が投票結果に反映されることになる。

 もちろん、この方式には幾つか問題がある。一番の問題は時間と費用が掛かることだ。しかし民主制は世論を適切に反映してこそ健全に維持され発展する。そもそも民主制は専制よりも選挙や討論などで政治コストは高くつく。それゆえ、コスト増になっても世論を反映できる方がよい。次に、野党間で連立政権に関する政策協定が出来ないまま選挙に突入し、投票の結果、少数政党乱立状態になり政治が混乱・停滞して国民生活に悪影響を与える可能性がある。だが、こういう事態はEU諸国などではしばしば起きている。それでも政治は機能している。そういう状況になっても、各政党が国民生活への影響を最小限に留められるように、協調や妥協が必要なときはそれに相応しい行動を取ることができれば問題は解消する。むしろ、そういう経験を積み重ねることで民主制は成熟する。

 いずれにしろ、現行制度のままでは、長期に亘る自公政権下で拡大した政治腐敗と既得権益維持の慣行が変わることは期待できない。選挙制度を変えるだけで状況が一変する訳ではないが、何かきっかけがないと政治改革は進まない。政治家、報道、言論界などには現状をよく分析し選挙制度の改革を真摯に検討してもらいたい。現実問題として、選挙制度を変えないと政治家の意識改革も進まない。


(2024/3/31記)


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