井出薫
株価が一時期、4万円を超えて史上最高値を更新した。その後、為替が円高に動いたこともあり再び3万8千円台に戻っているが、傾向とすれば株価は上昇している。 しかし、史上最高値を記録したとはいえ、バブル期と同水準にとどまっており、諸外国と比較すると、日本の株価がここ34年間如何に低迷していたかが分かる。この期間に米国では株価は10倍以上になっている。韓国でも3倍になっている。バブル期の絶頂期89年には、NTTが時価総額で世界1位、時価総額上位50社の6割を日本企業が占めていた。当時の株価が過大評価だったことは明らかだが、それでも、日本がそれ以来、経済が低迷していたことがよく分かる。経済が好調な時期は企業の利益が拡大し賃金が上がり配当も増える。GDPも成長する。ところが日本経済だけは経済成長が続く諸外国を横目に停滞した。株価のバブル期越えは好景気を示すものと言うよりも、日本経済が停滞してきた証なのだ。 いずれにしろ、政府は「貯蓄から投資」をスローガンに、一般市民に投資を勧奨している。預貯金金利が極めて低い現在、株など有価証券や投資信託に魅力を感じる者は多い。この先、金利が大きく上がることは期待できないから投資をする者が増えることは間違いなく、株価が継続的に上昇することは市民生活にプラスになる。 それでは、この先も株価は上昇し続けるだろうか。残念ながら先行きは不透明だ。バブル崩壊以降の日本経済は低迷していたとはいえ、アジア通貨危機やリーマンショック時を除くとマイナス成長だった訳ではなく、僅かながら成長は続いていた。企業業績も改善し近年過去最高益を出す企業も少なくない。それゆえ、ここ34年間、日本企業の株価は過小評価されてきたと見ることもできる。近年、海外投資家が日本企業に再び注目し株の購入に動いていることがそれを示唆している。それを考慮すれば、この先も株価は上がることが期待できる。だが、その一方で少子高齢化が進み、インドなど新興国の経済が目覚ましい発展を遂げている現在、日本という国が経済的に魅力ある存在としてこの先も評価され続けるかどうかは分からない。いや、期待できないと考えた方が無難だろう。 財政赤字の拡大で社会保障費が細っており、一般市民は老後の生活資金確保のために資産運用を迫られている。余ったお金を定期預貯金に回せば、金利が物価上昇を上回り自然に資産が増えるという時代が戻ってくることはない。しかし、先行きが不透明な中、投資には常にリスクが付き纏う。特に株式を一般市民が直接購入することには大きなリスクがある。長期的に株価が上昇し続けたとしても、リーマンショックのようなことがあれば大きく株価は下がり大きな損を抱えることになる。それゆえ、金融機関はリスクを最小化し、かつ安定的に物価上昇率を超える利子が得られる金融商品の開発が欠かせない。実際、近年、金融機関は市民のニーズに沿うような様々な金融商品を新たなに開発している。しかしながら、年齢、家族構成、保有資産などにより個々の市民に最適な金融商品は異なる。しかし、すべての者に最適な金融商品を用意することはさすがに不可能だ。出来ることは、様々な金融商品を複数保有することだが、どうすればよいかの判断は素人には難しい。それを補うのがファイナンシャルプランナー(FP)だが、数が少なく、また能力が不十分だったり金融機関に属しているため自社商品を優先させたりするので、いま一つ信頼ができない。能力が高く公平な判断ができるFPの育成が欠かせない。もちろん、そのための組織や法制度の整備が益々重要な課題になる。 しかし、真面目に働いていれば資産のことなど気にせずとも生涯安心して暮らせる社会がなぜ実現できないのか。百年前と比べると経済と科学技術は飛躍的に発展した。少なくとも先進国ではそういう社会が実現していても不思議ではない。短期的な施策を考えると同時に、それを拒むものは何か、今の社会体制は本当によいものなのかを考えることが極めて重要なこととなっている。 了
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