☆ 解散は許されない ☆

井出薫

 各種世論調査で岸田政権の支持率が上がっている。これを受けて、解散を求める声が自民党内で広がっている。だが、政局が安定している現在、解散・総選挙を実施する理由は見当たらない。

 党利党略の解散は許されない。首相の判断による解散は、与野党の議席が逆転あるいは与党内の対立が表面化し、国民生活に不可欠な法案や予算案が成立しない、など国民の信を問い、選挙結果に基づき安定した政権を作るために不可欠な場合に限り許される。

 首相に解散権があることが憲法に明記されているわけではない。7条で内閣の助言と承認が必要な天皇の国事行為に、衆議院の解散が含まれていることから、間接的に首相の解散権が認められると推定されているに過ぎない。そして、この首相の解散権は社会通念からして、先に述べたように、やむを得ない場合の最終手段として認められるものと解釈すべきで、首相が任意に発動できると解釈すべきではない。

 ところが、毎度のことながら、報道は解散は首相の専権事項とし、解散を求める自民党内の動きをただ事実として伝えるだけで、批判することをしない。これでは、総選挙があれば、新聞が売れ、テレビの視聴率が上がるから好都合と考え、解散を煽っていると勘繰られても致し方ない。

 どうしても解散をするならば、その理由を誰の目にもはっきりするような形で示す必要がある。たとえば防衛力増強の具体策とそれに伴う防衛費増額と財源としての増税の具体案を示し信を問うというのであれば、ある程度は理解する。だが、選挙に不利になりかねないことは口にしない。G7の成果などを強調して、聞こえの良い政策を羅列するだけに留まることが目に見えている。

 とにかく大義名分のない解散には断固反対する。それは憲法の精神を蔑ろにすることでもある。そして、それを易々と容認する報道機関には自分たちがなすべきことをなしているか反省してもらいたい。


(2023/5/23記)


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