☆ 原発運転期間の上限撤廃に反対 ☆

井出薫

 政府は、原子力発電所の運転期間を最長60年とする制限を撤廃するという。これは科学的知見を無視した政治的判断で容認できない。岸田首相は、無制限ではなく、30年を越えたら最長10年ごとに点検し、危険性があれば廃炉すると説明している。だが10年ごとの点検で運転継続は無理という判断が下されることなど考えられず、運転継続のお墨付けを与えるだけに終わる可能性が強い。どうしても延ばすというのであれば、政府から独立した、原発に批判的な有識者や野党の関係者を含む第三者機関が点検を実施し、少しでも危険があれば運転停止・廃炉を実施するような制度が求められる。だが、政府関連の委員会などは政府寄りの者が多数を占めるのが普通で、そのようなことは期待できない。

 確かに60年を越えたら必ず使えなくなるとは限らない。だが永遠に使えることなど絶対にない。どんなにこまめに点検・修繕しても必ず劣化が進みリスクは高まる一方になり、いずれ運転停止・廃炉が必要となる。それを怠れば大きな事故が起きる。それを考えれば、むしろ60年ですら長すぎる。10年ごとに点検すればよいなどという考えは非科学的、政治的配慮ありきのものでしかない。

 福島原発の事故が人々の生活にいかに大きな悪影響を与えたか、岸田首相はもう忘れてしまったのだろうか。一部の原発推進者は「原発事故で死んだ者はいない。原発は安全だ。リスクが過大評価されている。一方、温暖化対策に原発は欠かせない」と盛んに安全性と有用性を強調する。だが、福島原発事故で死者が出なかったのは運が良かったに過ぎない。多数の従業員が大量に被爆し死亡したり長く患うことになったりした可能性はあった。

 地球温暖化対策に原発を推進するべきという主張は日本だけではなく国際的に広がっている。だが、これはロシアのウクライナ侵攻の影響で燃料価格が高騰したことに動揺した者たちの短絡的な主張でしかない。事故リスクと放射性廃棄物の処理の難しさを考慮すると、原発は維持可能ではない。たとえ使うにしても最小限、電力が足りないところで時限的に使用することが望ましい。太陽光発電や風力発電は出力が安定しないという弱点があることは認める。しかし、それを補完するためには原発が不可欠ということにはならない。徹底した省エネ、蓄電池の活用、水力や地熱、バイオマスなどの活用により、原発を使わないで済ませることは不可能ではない。

 岸田首相は今国会で法案の成立を目指すとしているが、今一度、批判的な有識者や市民の声に耳を傾け再考してもらいたい。


(2023/2/20記)


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