☆ 社会主義の提唱を ☆

井出薫

 米国では若者を中心に社会主義を支持する者が増えている。自ら社会主義を提唱するサンダース上院議員は民主党の大統領候補の一人で若者から多くの支持を得ている。

 東西冷戦の終結、ベルリンの壁の崩壊、ソ連東欧共産圏の消滅から約30年が経つ。東西冷戦時代は、社会主義と言えばソ連型のマルクス・レーニン主義を意味し、西側諸国ではそれに対する拒否感が強かった。だが、それも今の若者にとっては歴史的なエピソードに過ぎず、それに伴い社会主義という言葉への拒否感も薄れている。

 そもそも、「社会主義=マルクス・レーニン主義に基づく共産主義」という訳ではない。社会主義とは、社会全体の福祉を重視する立場を意味するものであり、マルクス・レーニン主義に限定されるものではない。社会主義とは一般的に、貧富の格差の是正、社会的弱者の救済と自立支援、行き過ぎた自由主義と自己責任論が生み出す弊害の是正、人権の重視、環境の重視、あらゆる差別の禁止、平等などを主要な政策として掲げ、民主と人権を擁護しながらも、状況に応じて経済的な自由と財産権よりも社会全体の福祉と平等を優先する立場を意味する。真面目に働くエッセンシャルワーカーが苦しい生活を送る一方で、親の遺産や金融資産の運用だけで贅沢な暮らしができる者がいるなどという状況を容認しないのが社会主義だと言ってよい。

 ソ連型の共産主義が崩壊してから、新自由主義が世界を席巻した。新自由主義は富の拡大に貢献したが、一方で格差拡大や環境問題の深刻化など様々な弊害をもたらした。そして、それは市場の自由を何より重視する新自由主義の必然的な帰結だった。それ故、今の時代、社会主義が再評価されるのは当然の成り行きだと言ってよい。

 ところが、米国や欧州とは異なり、日本では社会主義が評価されない。政党では、日本共産党を除くと社会主義を標榜する党はない。社会民主党と立憲民主党左派すら主として立憲主義と護憲、弱者救済などを旗頭として掲げ、社会主義という言葉を避けている。

 広義の社会主義には、スターリン主義やナチズムも含まれる。このような人命軽視、人権無視の独裁体制は絶対に容認できない。だから、民主と人権を徹底し、社会主義への批判を尊重する寛容の精神と暴力の絶対否定が欠かせない。だが、それを守れば、社会主義は悪くない。いや、未来を託せる最有力の選択肢といってよい。それゆえ、社会民主党は言うまでもなく、立憲民主党左派、さらに、れいわ新選組もはっきりと社会主義を提唱するべきだと考える。根本的な政治思想をはっきりとさせないから、保守から「反対ばかりの政党」と揶揄される。行き詰っている資本主義から社会主義へと社会を転換させると言えば、それだけで、立派な提案であり、市民への新しい選択肢の提示になる。それが市民から支持されるかどうかは分からない。いや最初は非現実、お花畑論だと批判する者の方が多いだろう。だが、現代の資本主義は行き詰っており、構造改革も、MMTも、ESGもそれを救うことは難しい。それが誰の目にも明らかになり、社会主義が支持される、あるいは容認される日が必ず来ると思われる。長い目で見れば、社会主義を提唱することで、すぐに政権を取ることが出来ずとも、立憲民主、社民、れいわの連立政権が日の目を見る時が来ると期待される。


(2022/5/8記)


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