☆ 説明不足の解消を ☆

井出薫

 人の話をよく聞くことが自分の特性だと岸田首相は言う。それは善いのだが、話しを聞くだけではなく、丁寧に説明してもらいたい。

 日本維新の会や一部評論家などから、新型コロナの感染症法上の分類を現行の2類から5類に変更するべきだという意見がでている。これに対して、首相は感染が急拡大している中で変更するのは適切ではないと回答している。だが、なぜ適切ではないのか説明が足りていない。想定を超えて急拡大しているからこそ5類に変えるべきだという意見もあるからだ。感染が急拡大している中、5類に変更することが、具体的にこういうデメリットがあるから好ましくないときちんと説明しないと提案者も市民も納得しない。それをしないから医師会の圧力があるからに違いないなどと勘繰られることになる。

 新型コロナの感染が広がった一昨年春以来のことだが、欧米では日本の10倍以上の感染者が出ているのに医療崩壊に至っていない。第6波では感染者数の差は縮まったが、それでも人口比でいくと、日本は4分の1以下に収まっている。それなのに、日本では医療逼迫が起きている。欧米と日本では何が違うのか、そこの説明がなされていない。第1波のときよりは、格段に医療体制が拡充され、病院の受け入れ可能な人数も増え、近所のクリニックでも診察や検査をしてくれるようになった。だが、それでも欧米と比較すると脆弱だと感じざるを得ない。そして、そこに多くの市民が疑問を持っている。そのために、多くの人が、今なぜ色々な規制を受け入れなくてはならないのか、納得が出来ていない。だから不満も増える。これまでもほとんどの市民が不満を持ちながら、規制を受け入れ、欧米諸国のように法的拘束力を持つ命令をしなくてもワクチンを接種し、感染を抑えることができていた。しかし、今のままでは、いずれ市民も言うことを聞かなくなる。特に、重症化リスクが極めて低く、行動規制に影響を最も多く受ける若者たちは我慢の限界になる。

 ワクチン接種を薬剤師が実施するという動きが昨年からあるが、思うように進んでいない。感染拡大が進む中、医師は患者の診察と検査をしながら、ワクチン接種をしなくてはならない。薬剤師がワクチン接種を担えば医師の負担は大幅に減る。薬剤師は薬やアナフィラキシーについて深い知識を有しており、ワクチン接種に十分対応できる。なぜ、薬剤師による接種が進んでいないか説明が必要だ。

 日本は感染者数も、死者数も欧米よりも少ない。また、ワクチン接種も法的に強制しておらず、市民の自由が維持されている。総じて言えば、日本のコロナ対策はそこそこに上手くいっている。それにも拘わらず、歴代の首相、安倍、菅、岸田が市民から批判されるのは、ここで述べたような疑問にきちんと回答していないからだ。岸田首相には人の話をよく聞くだけではなく、十分に分かりやすく説明する技術を身に付け実践してもらいたい。また、国会議員や報道は、質疑や取材などを通じて、こうした市民の疑問への回答を引き出す努力をする必要がある。


(2022/2/4記)


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