☆ 原発をどうするべきか ☆

井出薫

 福島原発事故以来、脱原発を提唱する者が増えた。自民党総裁選でも河野太郎は脱原発の意向を示唆した。筆者も、若い頃から、事故が起きたときの被害が甚大で長期的なものとなること、放射性廃棄物の処理が困難であることから原発には反対だった。そして、基本的には今でも原発には反対している。だが、気候変動の影響が顕著になり、温室効果ガス削減が喫緊の課題となっている現在、果たして脱原発でよいのかという疑問を感じるようになった。

 再生可能エネルギーで電力をすべて賄えるのであれば原発は要らない。だが、再生可能エネルギーの主力である太陽光発電と風力発電は時間帯、季節、気象条件で発電量が大きく変動するため、現在の技術では、電力の安定供給という観点から自然環境に影響されない他のエネルギー源が不可欠になる。その主力が火力発電で温室効果ガスの大きな排出源となっている。では、温室効果ガスを発生せず、安定的に大規模に電力供給できるエネルギー源は何かというと、現時点では原子力以外にはない。

 もちろん、そのことは原発は不可欠だということを意味しない。太陽光、風力以外にも、以前から普及している水力発電があるし、地熱発電もある。水力も地熱も気象条件による変動は基本的にはない。他にも、潮流発電やバイオ燃料による発電も比較的安定的に電力を供給することができる。また、蓄電技術を改良することで再生可能エネルギーの弱点を補うこともできる。つまり、理論上は、原発ゼロは不可能ではない。実際、ドイツは着々と脱原発と脱炭素双方の実現に向かっている。

 だが、日本の現状を考えたときに、果たして本当に脱原発と脱炭素を同時に実現できるのかというと疑問が残る。ドイツと日本では地形や気象条件、人口などが異なる。また、ドイツは隣国と陸続きなので隣国と電力を売買することができるが、日本ではできない。それに再生可能エネルギーにも弱点はある。水力はダムが必要で河川の生態系を破壊する恐れがある。一時期盛んに脱ダムが叫ばれたことは記憶に新しい。太陽光は面積当たりの発電量が小さく十分な発電量を確保するには広い面積が必要となる。また太陽電池には有害物質が含まれており製造や廃棄過程での適切な処理が欠かせない。バイオ燃料用の穀物栽培が食糧生産を阻害することもある。再生可能エネルギーと言っても、環境負荷がないわけではない。また発電量に対する発電コストが大きいと現実には導入が難しくなる。

 現時点では、日本で脱原発と脱炭素を同時並行で短期間に実現できるという保証はない。そのあたりを十分に検討してエネルギー政策を決める必要がある。原発反対というだけでは脱炭素が実現できなくなる恐れがある。勿論、その一方で脱炭素のために原発は不可欠だと断定し原発を増設することが正しいとは到底思えない。それは脱炭素に成功しても放射性廃棄物という深刻な環境負荷を生み出す。いずれにしろ、原発の将来を独断的なイデオロギー論争で決めてはならない。科学的・技術的な知見、経済性、住民の理解、事故発生時の対策と補償、など多角的な検討と討議、そして徹底した情報公開を通じて、原発をどうするかを決める必要がある。


(2021/10/1記)


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