☆ 市民に適切な情報提供を ☆

井出 薫

 30年度までに二酸化炭素など温室効果ガスの排出量を13年度比で46%削減するという。19年度の排出量を13年度と比較すると14%減っている。だが、このペースでは到底目標は達成できない。そこで、政府は産業部門と家庭部門に分けて、それぞれ削減目標を設定し、家庭部門では66%の削減が求められている。

 温室効果ガスによる温暖化対策は国際社会の最重要課題の一つで、一般市民としても可能な限り協力する必要がある。だが、そのために必要な情報が不足している。環境省の資料によると、19年度で、世帯当たりの年間二酸化炭素排出量は2.72トンで、そのうち66.2%を電気が占め、都市ガスが14.7%、LPガスが5.9%、灯油が13.2%となっている。電気の使用は直接的には二酸化炭素を排出しないが、発電で石炭など化石燃料が使われるので、それを換算して排出量としている。ただし、この数値には自家用車のガソリンや家庭ごみなどから排出される二酸化炭素が含まれておらず、地球温暖化防止全国ネットの資料などを見ると、実際の排出量はもっと多い。また、これらの寄与を含めると電気の占める割合は45%程度に下がる。ところが、こういう数値とその意味が一般市民にはほとんど周知、解説されておらず、多くの者が、何を、どうすれば、どの程度削減に貢献できるのかが分からない。一般市民に行政や関連団体の資料や、市民講座や大学の通信教育で勉強して自分で考えろなどと言われても、そんなことはできない。

 電気が占める割合が多いことから、太陽光パネルや蓄電池を設置し節電することが削減に貢献することは分かる。だが、筆者の自宅のように築57年の木造1階建てで、周囲を二階建てに囲まれている家屋では太陽光パネルは設置できない。また、太陽光パネルを設置するにしても、その製造、設置の過程で温室効果ガスが発生するはずで、どのくらいの期間使用し続けると正味で排出削減になるのか判断できない。都市ガスや灯油が二酸化炭素など温室効果ガスの排出に繋がることは誰でもわかるが、オール電化で電気に切り替えた時に排出削減になるのか、むしろ排出増大になるのか分からない。そもそも、私の家庭がどれだけ年間で温室効果ガスを排出しているのか、平均より多いのか少ないのかも分からない。

 家庭部門での温室効果ガス排出量削減には一般市民の協力が欠かせない。だが、そのためには、行政や関係団体、専門家などは、省エネ、再生可能エネルギーの活用などと言う抽象的なスローガンではなく、科学的根拠に基づく具体的で正確な情報を市民に提供する必要がある。さもないと、良かれと思って遣ったことがかえって排出量増大に繋がったり、環境を悪化させたりすることになる。


(2021/7/30記)


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