☆ 五輪を開催するには ☆

井出薫

 二階自民党幹事長が、新型コロナの感染状況によっては五輪中止もあり得ると発言したと報じられている。尤もな意見で、国民の生命と健康を引き換えに大会を開催することなど出来ない。だが、一方で、開催まで百日を切った状況で中止することは容易ではない。たとえば開幕直前の二週間前に中止するなどということになったら、どうなるだろう。国内だけではなく、海外でも大混乱が起きる。日本は無責任で、そもそも五輪を開催する能力も責任感もなかったと批判されることは間違いない。もし中止するのであれば、少なくとも3カ月くらい前、つまり4月中がタイムリミットになる。5月にもなれば世界中が五輪に向けて本格的に動き出す。だが、4月中に中止の決断をすることは到底無理だと思われる。これまで政府や五輪関係者は必ず開催すると国内外に公言してきた。それを撤回する理由が4月中に見つかるとは思えないからだ。各種世論調査をみると、中止または延期を望む者が半数前後存在する。だが、圧倒的多数が中止または延期を望んでいるわけではなく、また開催反対運動が盛り上がっているわけでもない。それゆえ世論を背景に中止することはできない。世界が中止を認めるのは、東日本大震災級または首都直下の大震災の発生、あるいは参加を見送る国が続出する場合などに限られる。いずれも可能性は薄く、そもそも大震災などが起きたら、五輪どころの騒ぎではなくなる。

 いま日本にできることは、間際になって感染爆発で中止せざるを得ない状況になったときに備えて謝罪と賠償の心づもりをしつつ、感染を抑制して安全安心な大会を開催するために必要な諸作業を確実に進めることしかない。そのために必要なことは、速やかに感染を抑制しリバウンドを防止する確実かつ具体的な対策を立案実行することだ。ところが、それができていない。ここにきて、未だに「安全安心な大会を必ず開催する」という決意表明ばかりで、その先が見えてこない。これでは、国民の不安と不信が増大するばかりで、五輪開催の機運も盛り上がらない。

 とにかく、具体的なロードマップを早く示す必要がある。たとえば、「5月末までに東京で新規感染者一日100人以下、全国で500人以下まで抑え込む。その後は、リバウンドを阻止するために検査等を徹底する。並行してワクチン接種を加速し、開幕3週間前までには医療関係者、高齢者と基礎疾患のある者の接種を完了させる。こうなれば、感染者数も重症者数も大幅に減り、安心して大会を開催できる。」こういうスケジュール感をはっきりさせ、それに沿って、様々な具体的な対策を速やかに実行する。それにより、安心感は増し、多くの国民は五輪に肯定的になる。

 「そんなことは分かっている。検討もしている。だが、容易ではないから苦労している。」と言われるかもしれない。だが、愚図愚図していると、土壇場で中止し世界から非難と嘲笑を浴びる、または、いまさら中止は不可能と開き直って感染爆発を起こすという最悪のシナリオが現実化しかねない。確かに新型コロナは手強く、こちらの思惑通りには事が運ばない。だが、お題目を唱えているだけでは上手く行くはずもない。具体的な対策を考案できず成り行き任せにするしかないのであれば、中止するしかない。その場合は、混乱を最小限に留めるために速やかに中止を決断する必要がある。


(2021/4/17記)


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