☆ 迷走するリベラル ☆

井出薫

 立憲民主党などリベラルな政党への支持が広がらない。菅政権は盤石で、次の選挙も自公政権の大勝が予想される。なぜなのか。

 前身である民主党は、98年の設立当時、野党第一党だった社会党を反対するだけの野党と批判し、政権を担いうる責任政党を目指すと宣言した。それは功を奏し、人々の期待を担って09年の衆院選で圧勝し、政権を奪取した。だが、3年3か月で民主党政権は崩壊した。なにより、小沢派と反小沢派の党内抗争が激しく、まともな政治ができなかった。だがそれだけがすべてではない。東日本大震災と福島原発事故という未曽有の災害に見舞われるという不運があったが、しっかりとした対応をしていれば、むしろ支持を固めることができた。だが、政治主導という旗頭が災いして、まともな対応が出来なかった。当時、筆者は勤め先の企業で行政の窓口対応をしていたが、能力も経験もないのに、政治主導と称して官邸で一元的な対応をしようとして、何もできず、一般市民にも企業にもろくな支援ができない政権の姿を間近で見ることになった。それどころか、しばしば無理難題を吹きかけ、復旧活動の邪魔をした。現場を知る官僚や地方行政官が様々な対策を取っていたのと対照的で、筆者のような民主党支持者も失望せざるを得なかった。「悪夢のような民主党政権」は言い過ぎで、子育て支援などで成果があったし、中途半端だったが事業仕分けで予算の合理的配分を実現した。途中で腰砕けになったとはいえ、沖縄県民の負担軽減のために米国に対して普天間基地の辺野古移転の再考を求めた。だが、総じて言えば、政策でも期待外れの連続だったと言わなくてはならない。4年間は消費税増税はしないと言ったにも拘らず、消費税増税を決定し、共謀罪無しで国際組織犯罪防止条約を締結できると言ったのに締結できなかった。

 政権から転落した後も、信頼を回復するにはほど遠い振る舞いしかしていない。政権を担いうる責任政党だったはずが、近年は反対ばかり、批判ばかりの政党に戻ってしまっている。共謀罪の審議の際には、政権時代に締結できなかったにも拘らず、またぞろ共謀罪無しでも国際条約を締結できると主張し、「なぜ民主党政権時代に締結しなかった」と批判された。公約を破って消費税増税をしたのに、ここにきて、新型コロナ対策として消費税減税を主張している。ご都合主義もいいところだ。GoToキャンペーンは感染拡大を招いた原因の一つに違いない。それゆえ、それを批判するのは当然だ。だが、GoToが苦境に陥っている観光業や飲食業の支援策として効果を発揮しているのも事実で、ただ批判しているだけでは広く人々の支持を得られない。党員や地方議員などを中心に広く全国の人々の声を集め、感染対策と景気対策の両面で具体的な対案を政府に突きつけ、また、立憲民主党系の長も少なくないのだから、可能な限り地方の支援を行うことで人々の理解と支持を得るよう努める必要がある。しかし、そういう努力をしているとは思えない。

 政界だけではなく、リベラルと言われる報道や言論も、広く支持を集めるに至っていない。リベラル系の言論では、「(安倍は)著しく知性と倫理性を欠く指導者」、「アベノミクスではなくアホノミクス」、「日本の劣化とそれを隠蔽する安倍政治」などという上から目線で紋切り型の批判が目立ち、反安倍、反菅、反自民の立場の者たちの歓心を買うだけで、広く人々の心に響いてこない。特段、反安倍ではない普通の人々には、これらの言説は「安倍は愚かで悪者だ。それを容認する君たちは愚か者だ。」と言われているようで、到底納得できないだろう。むしろ、精力的に動きまわる首相、口先だけで何もしないリベラルという構図ができてしまっている。だから、非正規雇用の労働者など経済的弱者、本来であれば自民党批判、リベラル擁護に回るはずの人たちの支持がリベラルに向かわず、維新など保守に流れている。若者ほど自民党支持者が多いという現実も、同じメカニズムによるものだろう。

 リベラルは何よりも先ず、「なぜ、自分たちは支持されないのか」を真剣に考え反省する必要がある。立憲民主党は民主党政権が圧倒的な支持を得て成立したのになぜここまで転落したのか、支持率が10%にも届かず、自民党の3分の1以下であるのはなぜか、それを徹底的に考え、反省し、それを公にする必要がある。さもないと、党勢の回復は期待できない。リベラルな報道、言論も、自分たちの主張は本当に正しいのか、なぜ右寄りの人々や言論が勢力を拡大しているのか、なぜ森友、加計、桜を見る会などの不祥事が市民の批判運動に繋がらないのか、自民党の強さの源泉は何か、こういうことを真摯に考える必要がある。さもないと、リベラルはさらに衰退していく。自民党支持者ならばそれでよいと言うかもしれないが、健全な体制批判者が消えた社会は、独裁に限りない近い社会であることを忘れる訳に行かない。また政権交代の可能性があることが、人々の政治意識の向上に繋がる。リベラルには、自分の殻を破り、広く世間に目を向け、右派や保守タカ派などとも真摯に討論し、具体的な行動を起こし、自民党支持者を含めて広く人々の関心を得るように努めてもらいたい。


(2020/11/28記)


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