☆ 感染拡大防止が急務 ☆

井出薫

 7月に入って、東京を中心に新型コロナの感染拡大が続いている。すでに由々しき事態に至っているのに、行政の動きは鈍い。

 経済を動かしたいのは良く分かる。観光や飲食では、ここで緊急事態宣言などを発動されては廃業を余儀なくされる事業者が続出することになる。観光や飲食だけではなく、他の業種も影響は免れない。それゆえ、各個人と各事業者に、自主的な感染対策の実施を促し、それを条件に自由に経済活動をさせるという施策は一つの選択肢として認められる。GoToキャンペーンなども観光業支援、経済活性化として一定の有効性があるだろう。だが、すべては、感染拡大が抑止されているという条件が満たされていればの話しだ。ところが、すでに、それが満たされているとは言えない状況に至っている。

 どの程度の感染ならば許容できるだろうか。死亡率を2%程度(注)に抑えられるとして、全国で一日500前後が限界だと考える。一日500前後ならば、一日の死亡者数は10人、年間で3650人となる。これは大きな数ではあるが、年間の季節性インフルエンザによる死者数とほぼ同じ水準で、外出規制や休業などによる経済的な損害、それに起因した死の増加を考慮すると、新型コロナの世界的流行という状況に鑑み、やむを得ない水準として許容されるだろう。
(注)これまでの実績では死亡率は5%を超える。しかし、3月、4月は検査数が少なく、未確認の感染者が多数いると推測されるから、おそらく、実質的な死亡率は2%前後とみてよいと考える。

 だが、すでにこの水準を超え、さらに感染者が増加することが予測される状況に至っている。若年層が多く、死亡率はより低くなることも想定されうるが、このまま感染が拡大すれば、リスクの高い高齢者へ感染が広がることはさけられないし、医療崩壊の危機が早晩訪れる。もし一日の感染者数が2000を超えるようならば、医療崩壊が起き、年間の死者も1万を突破することになるから、緊急事態宣言を発動して、大々的な外出自粛や休業要請をしなくてはならなくなる。しかし、それでは経済への打撃は計り知れないものとなる。

 それを回避するためには、早急に、それも今日、明日の内に強力な対策を取る必要がある。事業者に感染防止策を徹底すること、国民に新しい生活様式を守ることと感染防止策をとっている店や旅館を選んでいくことなどを要請するだけでは不十分だ。行ってみなければ、感染防止対策が徹底されているかどうか分からないし、行ったところで換気扇がどこにあるか、十分な換気ができているかなどは分からない。呑兵衛は酒が入れば気が大きくなり社会的な距離など忘れてしまう、ガイドラインを厳密に守ると経営が成り立たないという事業者は多い。要するに「ちゃんとやりなさい」と要請するだけでは限界があり、感染拡大に歯止めをかけることは難しい。感染拡大をしっかりと抑止するには、やはり、地域や業種を限定して、外出自粛や休業などを要請・指示することが欠かせない。行政は直ちに行動を開始する必要がある。


(2020/7/18記)


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