☆ 東京の限界 ☆

井出薫

 新型コロナの感染者数、死者数とも東京が抜きん出ている。東京および首都圏を除くと、全国的に感染は収まりつつあるが、数は減っているとは言え首都圏は収束にはほど遠い。

 原因は色々あると思うが、やはり人が多いということが大きな要因になっている。民間企業がテレワークを取り入れたことで都心の人出は確かに減った。だが郊外はむしろ増えている。郊外のスーパーは買い物客で溢れ、三密が発生、クレームを受けて、小池都知事は買い物は一人、三日に一度、短時間で、と要請した。だが、小さな子どもを家においておくわけにはいかない、三日に一度となると買う量が増えて一人では持ちきれない、三日に一度では足りない、などの問題があり、密はほとんど解消されていない。デリバリーサービスを使うことが推奨されているが、デリバリーを頼む客が増えて、注文した商品が届かないなどの問題が起きている。筆者が利用していたデリバリーサービスも当日注文ができなくなり、前日、それも限られた時間帯しか注文を受け付けてもらえなくなった。

 東京はもう限界に達している。どうやっても密を避けることはできない。さらに、神奈川、千葉、埼玉など首都圏の人口が増加し、(新型コロナ以前のことだが)外国人観光客の急増で、ショッピングの中心地である東京の過密はますます加速している。その結果が、新型コロナの感染拡大であり、経済の急速な冷え込みだ。さらに、過密都市の弊害として、行政の財政悪化も手伝い、電気、ガス、水道などのインフラの更改が遅れ、劣化が著しいこともあげておかなくてはならない。また、世界の主要都市で東京くらい電線の地中化が進んでいない都市は他にはない。予算の問題もあるが、人が多すぎて工事を行うことが容易ではないことが大きな要因となっている。

 東京の人口を抑制すべきという議論は半世紀前からあった。景気がよかった時代には遷都論もあった。だが時の政権は地方経済の振興をスローガンに掲げながら、東京への一極集中を阻止しようとはしなかった。人口減の時代、地方振興と首都圏から地方への人の移動は表裏一体のはずなのに、首都圏の人口抑制さらには低減が政策としてあげられることはなかった。それどころか、五輪・パラリンピックを東京で開催し、首都圏にカジノなど統合型リゾート施設を誘致しようとしている。これでは、ますます東京は過密になる。

 大規模な首都直下地震が起きたら日本経済は破綻すると警告する者は少なくない。さらに、今回の新型コロナ感染拡大で、未知の感染症に東京が極めて弱い場所であることが明らかになった。東京は便利かもしれないが、危険な場所なのだ。幸い、新型コロナの感染拡大の第一波は、欧米のような規模にはならず、医療崩壊、数万のオーダーを超える膨大な数の死者を生むまでには至っていない。だが、第二波では欧米のような事態になることも十分にあり得る。東京ではなく地元で就職したいという学生が増えたという話も報じられているが、当然のことだろう。

 新型コロナを教訓として、東京と首都圏の政治経済規模の縮小、地方への人口移転を進めることを真剣に検討するべきだ。そのためには、今後、首都圏では、国際的なイベントや、カジノなどの集客力の大きな施設の建設は止める。国家の主要機関を地方に移し、民間企業には地方移転のためのインセンティブを与えて移転を促す。それにより東京と首都圏の政治経済は縮小し、様々な課題が生じるかもしれない。だが、首都直下地震や感染爆発による日本社会への影響は大幅に低減できる。さらに、地方振興で、全体としては東京・首都圏の縮小を補うことができ、日本は繁栄する。また、東京・首都圏が縮小するとは言っても、それはマクロ経済的な指標においてのことであって、適切な政策をとることで、東京に暮らす一般市民にとっては、いまより平穏で安全な暮らしが実現できる。

 いずれにしろ、新型コロナは東京の限界を明らかにした。いまこそ、この経験を糧にして、東京一極集中の日本から脱却し新しい日本を作る機会とするべきだろう。


(2020/5/17記)


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