☆ 診断の難しさ ☆

井出薫

 広島で、6日、感染が確認された男性は、8度目の受診で初めて新コロナウィルスに感染していることが判明した。医療機関の不手際を指摘する向きもあるが、一連の流れを見る限り医療機関に落ち度はなく、新型コロナウィルスの診断の難しさを示している。

 2月上旬から男性は咳症状が続き、37度の発熱で2月15日に医療機関を受診している。37度は平熱に近く、帰国者・接触者相談センターに相談する基準である37.5度より低い。体温37度程度で咳が続く原因としては、気管支炎など様々な疾病が想定され、新型コロナの感染であると診断することはできない。咳を鎮める薬を処方し、しばらく様子を見るように指示するのが医師としての適切な措置だ。咳が1週間以上続く、37度の発熱という症状だけで、新型コロナウィルスの検査をしていたら、とても検査が間に合わない。たとえ検査ができたとしても、大多数が陰性という結果になる。

 初診以降も、男性は症状が改善せず7回複数の医療機関を受診している。だが、改善しなかった一方で著しい症状の悪化もなく、医療機関が検査の必要なしと判断したことが間違いだったとは言えない。しかも、症状が出てからほぼ一カ月経つことを考慮すると、果たして初診のときから感染していたのか、途中で感染したのか定かではない。もし前者だとすると、入院が必要となるまで重症化することなくウィルスが1カ月体内に留まっていることになる。

 帰国者・接触者相談センターに相談する基準は、37.5度以上の発熱と咳などの風邪症状が4日以上続くときとなっているが、急性気管支炎、インフルエンザ、新型コロナウィルス感染以外の原因による肺炎でもこの基準に当てはまる。今年は少ないがインフルエンザの年間の患者数は例年1千万人、肺炎は年間で200万人近く、死者が12万人に達する。それゆえ基準に該当しても、新型コロナウィルスに感染している確率は極めて低く、相談の結果は自宅療養か、市中の医療機関の受診を勧められることになる。指定の医療機関の受診が勧告されても、初診で検査の必要ありと診断されることは多くないだろう。

 新型コロナウィルスの診断は、感染者と濃厚接触した可能性が高い者、国内外の流行地からの旅行者・移住者などを除くと、重症化するまで検査をして確認することは難しい。そこが、新型コロナウィルスの感染拡大を防ぐことが難しく、日本に限らず世界で感染が拡大している理由だと言ってよい。そして、対処は容易ではない。最終的には、中国のように封鎖という強硬措置を取るにしても、日本のように全国に感染が広がってしまうと容易ではない。

 だからと言って手を拱いているわけにはいかない。テレワークや時差出勤、休校、大規模イベントの中止などの対策を取っているにも拘らず感染は拡大しており、今後も感染者が増える可能性が高い。気温と湿度が上がってくるとインフルエンザと同様に終息するのではないかと期待する者も多いが、確固たる根拠はなく、SARSが7月まで続いたことを考えると楽観することはできない。やはり、検査を強化し、可能な限り感染者を早めに発見して隔離する、これしかない。行政のさらなる取り組みを期待する。


(2020/3/8記)


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