☆ 明確な指示を ☆

井出薫

 新型コロナウィルスの感染が止まらない。政府は、企業に対して、テレワーク、時差通勤の推奨を、イベント開催者には、開催の見直しの検討を求めている。しかし、基本的な立場は、自主的な取り組みに委ねるというもので、イベントについては一律の自粛は求めないとしている。市民に対しても、専門機関に相談する基準や手洗いや咳エチケットなどの感染防止対策を公表しているが、こちらも市民の自主的な判断に任せている。要するに、最低限の対策をして、今後の様子を見るというのが現時点での政府の立場だ。だが、それでは不十分であり、もっと明確な指示を出すべきだと考える。政府が、企業や市民の自主的な判断に委ねるという姿勢をとっているために、東京マラソンの一般参加は中止されたが、Jリーグの開幕戦は予定通り満員の観客の下で開催された。しかし、両者のリスクには大きな差があるとは考えられない。むしろ東京マラソンの一般参加の方が濃厚接触する時間が短く、満員のJリーグの開幕戦の観戦よりもリスクは小さいとも考えられる。事実、専門家の中には東京マラソンの一般参加を見送る必要はなかったと指摘する者もいる。

 要するに、政府が明確で具体的な対応を指示しないから、企業や人によって対応にばらつきが出てきてしまう。感染症対策は画一主義が原則で、例外を許すと、そこから感染が広がる。一般参加を中止したことで東京マラソンでの新型コロナウィルスの感染は防げたが、Jリーグの試合で感染した者が、東京マラソンに出場する予定だった者に感染させることがありえる。つまり、一律に同じ対策を取らないと効果が薄れてしまう。

 現状、新たな感染者はクルーズ船の乗客を除くと一日十名程度であり、イベントの全面自粛などを求める状況ではないと政府は判断している。確かに、必要以上に市民の自由を制限することは望ましくないし、経済への影響も懸念される。しかし、新型の感染症には、最悪の事態を想定し、対策を前倒しして実施するべきだ。新型コロナウィルスについては、その挙動や病状の推移、感染の危険因子などについて十分な知見が揃っておらず未知の部分が多い。現時点では致死率は低いとされるが、今後病原性が増すこともありえる。また、発症すると肺炎に至る者が少なくなく、感染が拡大すれば専用の病床も、医師、看護師など医療従事者も不足する。すでに東京では不足が懸念されている。油断していると、病床、医師、看護師が不足し、中国を超える犠牲者をだし、市民生活や産業活動が元に戻るのに長時間を要するという事態になりかねない。日本では、中国政府が武漢を封鎖したように、ある都市を丸ごと封鎖するという荒業は法的に難しい。それゆえ、今の、日に十名程度の新規感染者という段階で徹底的に感染拡大防止策を実行することが求められる。民間の経済的な損失は国が補償すればよい。

 企業に対しては、明確に「体調不良な者の出社禁止、出社禁止日は有給休暇とすること」、「業務の一部縮小」、「出社が不可欠なもの以外は、テレワーク」、「出社が不可欠な者については、時差通勤や就業時間の短縮」、「出張原則禁止」などを指示する。イベント開催者には、「一定規模以上のイベントは一律禁止」を指示する、いずれも法に基づく命令ではなくとも、今回のような非常事態では、企業などは政府の指示に従う。むしろ、国から明確な指示がなされることを待っているともいえる。自主的判断に任せると言われても、医療の専門家ではない経営者や管理者にはどうすればよいか分からないからだ。それは一般市民とて変わらない。いずれにしろ、政府には、白黒がはっきりつけられる明確な指示を出すことが求められている。


(2020/2/24記)


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