☆ 正しく怖がる ☆

井出薫

 新型コロナウィルスによる肺炎で、よく耳にする言葉が「正しく怖がる」だ。

 国内での感染者は6日現在でクルーズ船内の患者を除くと25名となっている。インフルエンザの患者数が例年1千万人を超えることを考えると、ごくわずかな数字でしかない。現時点では、国内で感染する危険性はごく小さいと言える。致死率はインフルエンザよりは高いとはいえ、10%近い致死率を記録したSARSに比べて低く、武漢を除くとインフルエンザの倍程度という報告もある。武漢については短期間で患者が急増したために、病床も医師も足らず、治療が遅れて死者が増えたという面がある。それゆえ、現時点では、多くの専門家が指摘するとおり、インフルエンザの予防法である、手洗い、外出時のマスクの着用などを徹底するだけでよいだろう。慌ててマスクを買い漁ったりする必要はない。

 一方、インフルエンザの患者数と比較してごく少ないことから大した問題ではないと楽観する者がいるが、こういう考えも正しくない。インフルエンザは、二次感染で肺炎などを引き起こさない限り、健常者であれば治療をしなくても家で静養していれば3、4日で治る。しかし、新型コロナウィルスは肺炎を引き起こすから、発症したら家で静養していれば良いという訳にはいかない。肺炎では呼吸機能が弱まりそれが病状を一段と悪化させる危険性があるから、呼吸管理のために入院が必要となることが多い。そのため、患者数がインフルエンザよりずっと少なくとも、入院患者はインフルエンザよりも多くなる可能性が高い。そうなると、病床や医師、看護師の数が足りないという事態が起こりうる。それは、他の病気の患者の治療にも悪影響を及ぼす。さらに最初は数が少なくとも、感染症は指数関数的に患者数が増える可能性があり、決して油断はできない。たとえば一人の患者が一日の二人に感染させるとすると、感染者が重複しないと仮定して、単純な指数計算では27日で日本国内の全住民が感染することになる。もちろん、実際の感染者数の増減は単純な指数計算では算定できない。だが、指数関数的に増加する時期があることは事実で、今は20人台でも、ほんの1カ月でインフルエンザの患者数を超えることもありえる。つまり、現在の患者数だけをみて、大したことはないと判断するのは間違っている。

 さらに、現時点では、新型コロナウィルスについては十分な研究がなされておらず、感染力も毒性も正確なことは何もわかっていない。つまり現在の想定よりも感染力や毒性が高い、あるいは変異して高くなるということがありえる。それゆえ、可能な限り感染の広がりを抑えることが欠かせない。だが、一方で不安を煽ったり中国人を差別したりするようなことはあってはならない。「正しく怖がる」ことの重要性とその意味はこの辺りにある。


(2020/2/9記)


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