井出薫
近年、「現役世代の負担軽減」という言葉をよく耳にする。そのために、高齢者の医療費や介護費の自己負担率の引き上げ、年金支給開始時期の引き上げ、支給額の削減などが議論されている。だが、高齢者の負担を増やす政策では現役世代の負担は減らない。場合によっては、むしろ増える。 自己負担率1割でも、高齢者、特に75歳以上の後期高齢者にとって医療費の負担は大きい。それを2割にしたら、治療が必要であるにも拘らず医療機関を受診しない者が増える。親がそのような状況におかれたら、現役世代の子どもはどうするだろう。当然、自分のお金で親を医療機関に連れていく。子どもがいない世帯は生活保護などで支援しなくてはならない。要するに、高齢者の負担を増やせば、結局は現役世代にツケが回ってくる。 少し前のことだが、休日の夕方、電車でリュックを手にした70代から80代と思しき7、8名の男女を目にした。皆、いかにも楽しそうに談笑している。ピクニックの帰りなのだろう。そのとき、私の隣にいた中年男が囁いた。「税金で遊んでいる。いい気なもんだ。」と。この男の気持ちは分かるが、男は重大な見落としをしている。高齢者がピクニックで使ったお金は現役世代の手に渡たる。彼(女)たちが年金からピクニック代を捻出したとしたら、現役世代が納付した税金が現役世代に戻ってきたことになる。つまり、楽しくピクニックをしている高齢者は、現役世代に貢献している。男は不平を言うべきではなく感謝すべきだった。だが、高齢者がピクニックに行けるのは生活に余裕があるからで、高齢者の負担を増やせば、それも叶わなくなる。また、高齢者は貯金をたくさん持っていると言われているが、その貯金はいずれは支出され、あるいは遺産として現役世代へと移る。 高齢者世代と現役世代は対立関係にあるのではない。経済的には互いに支え合っている。高齢者の負担を増やしても、現役世代の負担は減らない。むしろ、現役世代に将来への不安を植え付けるだけに終わる。北欧など高福祉国家が経済的に上手く行っている理由をよく考察し、適切な経済政策を実施してもらいたい。 了
|