☆ 平成天皇の功績 ☆

井出薫

 平成ももうすぐ終わる。現行憲法が施行されてから初めて即位した天皇である平成天皇、そして皇后は大きな功績を残された。功績は主として二つある。

 天皇、皇后は、積極的に被災地を見舞われ、被災者と言葉を交わした。それも、上から慈悲を垂れるのではなく、膝をつき腰を下ろし、被災者と同じ目線で、被災者の苦しみ、悲しみを理解し、慰め、励ますというスタイルを貫いた。演出に過ぎないと揶揄する者もいるが、象徴としての天皇のあるべき姿を内外に示したと評価すべきで、事実、多くの日本人がその姿に敬意を表した。

 平成天皇はしばしばリベラリストだと言われる。皮肉なことに、天皇の国家元首化を主張するタカ派の保守や右翼などには、天皇の振る舞いや発言を苦々しく思っている者が少なくない。80の誕生日の記者会見で、これまでの人生で一番記憶に残ることは何かと問われ、太平洋戦争で300万を超える日本人が亡くなったことを挙げ、戦後の日本人が主権在民のもと、平和を保つ努力をしてきたことを称えた。ある将棋の棋士が天皇の前で、自分の使命は人々が国歌を歌い、国旗を掲げるようにすることだと述べた時、天皇は強制するようなことがないようにお願いする、と応えた。確かにこれらはリベラルな言動だと言えるだろう。しかし、天皇はことさらリベラルを主唱したのではない。憲法99条に、天皇は、国務大臣など公務員と同様に、憲法を尊重し擁護する義務を負うと書いてある。政治的な権能を持たない天皇に憲法を積極的に擁護する行動をとることは出来ない。しかし、尊重することはできるし、それが義務とされている。現行憲法は、主権在民、破棄しえぬものとしての基本的人権、戦争放棄と国際協調による平和、この3つを柱とする、リベラルな思想を基調としている。だから、天皇は、憲法に従い、主権在民、平和と人権をなにより尊重する姿勢を示した。現行憲法に批判的な右派からは天皇の姿勢は左に偏ってみえるかもしれない。憲法の精神を蔑ろにする大臣や国家官僚が少なくない現在、天皇の姿は際立っているように感じられるかもしれない。だが、その振る舞いは、憲法に従うという原則に基づくものであり、けっして特定の思想に与するものではない。憲法を尊重し、天皇の地位は憲法に基づくものであることを明確に示したことは、平成天皇の大きな功績と評価される。

 天皇も人であり、代が変われば、振る舞いや言動も変わる。しかし、次の天皇、そしてそのあとの天皇にも、平成天皇が確立した、憲法を尊重し、人々と同じ目線で語り合う象徴としての天皇という姿を継承していって頂きたいと思う。  


(H31/3/10記)


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