☆ 立憲民主党は何を? ☆

井出薫

 安倍政権が長期化する中、野党第一党の立憲民主党の責任は重い。だが、立憲民主党はどのような理念を持ち、何をするのか、一向にはっきりせず、自公政権の対抗勢力となりえていない。

 改憲の問題で、立憲民主党は盛んに安倍首相を非難する。首相に改憲の権限はないのに傲慢だ、などという批判が目に付く。だが、安倍は行政の長であると同時に国会議員であり、最大政党である自民党の総裁でもある。発言の場に問題があるかもしれないが、改憲の意欲を語ること、国会での議論を促すことにさほど問題があるとは思えない。おそらく、自公政権を支持しない市民も立憲民主党の主張には違和感を覚えるのではないだろうか。問題は安倍の言動ではなく、憲法改正、特に焦点である第9条を立憲民主党がどのように考えているのかなのだ。「第9条を堅持する。9条は戦後日本の平和を守り、世界平和へ貢献してきた。残念ながら、世界には紛争が絶えず、それゆえ自衛権を行使する必要性が生じないとは言えない。だから、当面、自衛隊と日米安保を保持する。だが、同時に世界平和の実現に向けて外交努力を続け、世界平和が実現したら、災害救助など国民生活に不可欠な機能を残して兵力としての自衛隊は解散し、日米安保も平和友好条約へと改正する。」というようなことを主張するのであれば、それが適切な理念・政策かどうかは別にして、一貫した理念を有する党と評価できる。だが、今のように、「安倍が駄目だから」式の議論では話しにならない。それならば、石破や野田、岸田、小泉進次郎が首相になったら9条改正に前向きになるのか?と突っ込みたくなる。

 消費税増税への対応も疑問が残る。消費税増税を決めたのは野田で、野田は立憲民主党には所属していない。だが、民主党政権時代に、最初に消費税増税を口にしたのは菅直人であり、菅はいま立憲民主党に所属している。ほかにも消費税増税に賛同した議員がいるはずだ。もちろん、政治家が意見を変えることは悪くない。いったん口にしたことは、どんなことがあろうと変えないでは、責任ある政治はできない。状況は刻々と変化しているからだ。だが、増税反対あるいは延期の明確な根拠を示さないとご都合主義の誹りは免れない。増税は、巨額の国債残高を根拠としている。それゆえ、中止あるいは延期を主張するのであれば、巨額の国債残高をどう評価し、どう対応するのか、明快な回答を示す必要がある。たとえば次のような主張は正しいかどうかは別にして、明快で一貫した主張になる。「国債残高は巨額だが日本の財政は破綻していないし、近いうちに破綻することもない。それはグローバル市場において、円が高い信頼性を持つことから明らかだ。それゆえ、逆累進性があり、景気対策にもマイナスの消費税増税をするべきではない。」、「国債残高を減らす必要はある。しかし、先の増税で景気が後退したように、今回も景気後退が起きる、そしてその影響は長く続く。その結果、財政再建の先延ばし、または、福祉や社会保障の切り捨てかいずれかになる。それゆえ、本格的な景気回復まで増税は実施すべきではない。」、「国債残高を減らす方法は、消費税増税よりも良い方法がある。高額所得者や大企業への所得税増税、企業の内部留保への課税など様々な手法があり、それらを組み合わせることで、消費税増税よりも良い結果が得られる。」などだ。最初の主張は荒唐無稽に思えるかもしれないが、巨額の国債残高にもかかわらず円の信用が落ちていないこと、日本には巨額の個人金融資産があり国債を買い続ける体力が日本の金融機関にはあること、国債の4割が日銀が保有していること、などから必ずしも荒唐無稽な主張ではない。実際、国債残高は多いが、日本が財政破綻している、あるいは、その瀬戸際にあるという主張には根拠はない。少なくとも世界の投資家はそのようには考えていない。

 要するに、今の立憲民主党は安倍批判があるだけで、独自の理念も政策も打ち出せていない。それで支持率をあげようなどとしても、できるはずがない。しっかりした理念と政策を提示し、それに基づき国のあるべき姿、具体的な政策について、自民党と論争し、市民の判断を仰ぐような体制を整えない限り、政権を奪還することはもとより、議席を増やすことすらできない。

 


(H30/10/29記)


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