☆ ふるさと納税 ☆

井出薫

 総務省は、過度の返礼品を送る自治体などにはふるさと納税制度の適用を認めないという方針を打ち出した。

 ふるさと納税は、一般市民が居住地だけではなく出身地など所縁のある土地を財政的に支援できるようにすることを目的とする。その背景には、公平な税の配分という狙いもある。出身地で公立学校に通い、就職のために上京し、そのまま東京で暮らし続けると、出身地で教育という行政サービスを受けて、東京で税金を払うことになる。これに対しては、出身地では本人に代わり両親が住民税を払っている、本人は東京で行政サービスを受けている、だから問題はないという反論もある。しかし、住民税の多くが教育費に費やされること、結婚して子供ができるまでは、多くの者は受ける行政サービスよりも払う税金の方が多いことから、この反論は成り立たない。多くの者が就職時または大学進学時に出身地から東京など大都市に移住する現実を考慮すると、このままでは、不公平であり、地方と東京など大都市の格差は広がる一方になる。だから、ふるさと納税で、少しでもこの格差を縮め、地方の振興に役立てることが、その本来の趣旨だった。

 ところが、豪華な返礼品、それも地元とは無関係の返礼品で(ふるさと納税としての)寄付を募る自治体が相次ぎ、納税者も、返礼品目当てで、縁もゆかりもない自治体に寄付する者が出てきた。これに対しては、寄付する側も受け取る側もいずれにもメリットがあるからよいではないかという意見がある。しかし、日本のすべての自治体が、同じようなことを始めたら、どうなるだろう。返礼品を用いる泥沼の税金奪い合いになる。そして、それは確実に実質的な税収減になり、行政サービスの悪化を招く。

 このような返礼品による税金獲得競争は、官僚的で非効率な自治行政に競争原理を導入することであり、行政の効率化、サービス向上につながるという意見もある。だが、行政に競争原理を導入するならば、行政サービスそのものに競争を導入しなくては意味がない。豪華返礼品で税収を増やし、財政的に潤っても、それが行政サービスの向上につながる保証はなく、却って合理化の妨げになる危険性もある。そもそも、行政活動の多くは、市場の失敗(社会的に有意義な事業が利益を得られないために民間では実施されない、など)を是正することを目的とする。だから、行政に安易に市場原理を導入するべきではない。

 それゆえ、総務省の方針は理解できる。だが、そもそも、事の始まりはふるさと納税制度そのものにあった。このような事態になることは、初めから予想ができた。総務省がここにきて過度な返礼品を規制すると言っても、自治体側からすれば、「何を、いまさら」だろう。寄付する先を出身地や一定期間以上在住したことがある地に限定しておけばこのようなことにはならなかった。しかし、ふるさと納税を推進した議員や総務省は、おそらく、こう考えた。「そんなことをしたら、ふるさと納税をする者はいない。せっかく作った制度が失敗だったと言われてしまう。」と。だから、寄付する自治体を限定せず、豪華返礼品も容認した。その結果、ふるさと納税は普及した。ところが、ここにきて、ふるさと納税により大幅な税収減になり、自治行政に支障をきたす自治体がでてきたり、度を越した返礼品競争になったり、弊害が目立つようになった。そのため規制をせざるを得なくなった。

 ふるさと納税という制度自体を否定するつもりはない。だが、返礼品の豪華さを競ったり、返礼品目当てで寄付をしたりすることは好ましくない。ふるさと納税の本旨を今一度よく考えて、制度の在り方を抜本的に見直す必要がある、もしそれができないのであれば、ふるさと納税そのものの廃止も含めて議論をするべきだ。


(H30/9/30記)


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