☆ 憲法を読もう ☆

井出薫

 一連の不祥事で改憲の動きは鈍ったが、安倍首相の意志は固く、国会終了後、具体的な改正案と改正へ向けた日程が明らかにされる可能性がある。

 改正の是非は最終的には国民投票で決まる。ここで問題は、「果たして憲法を理解している国民がどれだけいるか」ということだ。たとえ9条だけの改正だとしても、憲法の全体を理解していないと適切な判断はできない。

 理解するには、まず憲法を読む必要がある。憲法は短く、その気になれば短時間で読み終えることができる。解釈が難しい条項や、「・・は法律で定める」というように立法に委任されている条項があり、参考書が欲しい箇所は少なくない。だが、一度、じっくりと読めば、その趣旨は理解できる。そして、その中で、9条の意義についても再吟味することができるようになる。現時点では、ネットなどを見る限り、「近隣諸国に対抗するために自衛隊は不可欠だ。綺麗ごとを言っていたら日本は守れない。だから自衛隊を明記すべきだ。」式の感情的・感覚的な議論が多く、人々が国民投票において冷静かつ合理的な判断ができるかどうか甚だ怪しい。

 とにかく、まず憲法を読んでもらいたい。読めば面白い条文や、なるほどと思える条文がたくさんある。また「本質ではないが、ここは表現を変えた方がよい」と思う箇所も多々ある。たとえば33条と35条に出てくる「司法官憲」という表現は現代人には馴染みがなく、「裁判官」と変えた方がよい。戦前からの習慣でこの表現が使われたらしいが、「司法官憲」では検察官や警察官を意味すると誤解する者が出てくるに違いない。

 また憲法を時事問題に応用することができる。佐川元国税庁長官は先日の国会の証人喚問で、「証言を控える」旨の発言を繰り返し非難された。しかしこれは憲法上認められた権利で非難は当たらない。何人も自己に不利益な供述を強要されないと憲法38条に明記されている。たとえ高級官僚でもその例に漏れない。そして、これは人権擁護のための重要な条項で、この条項がないと、自白の強要それに起因した冤罪などが頻発することになり、また国会での証人喚問が吊るし上げの場になる危険性がある。

 近年、同性愛者など性的マイノリティーの権利が大幅に認められるようになってきている。しかし、24条には、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立・・」とあり、憲法は同性婚を否認していると解釈することができる。しかし、憲法の趣旨は、婚姻は二人の意思が全てで、家族や周囲の意見には左右されないということであり、同性婚を否認するものではないという解釈もできる。この事例は、家族や友人、会社の同僚と憲法について議論する際の格好の題材となるだろう。

 憲法を政治家や憲法学者任せにしてはならない。憲法をよく読み、周囲の者と大いに議論する。そして国民すべてが自分で憲法をどうするべきかについて熟慮する。これにより、来るべき改憲の国民投票で適切な判断を下せるようになる。そして、国会議員には、そうなる日まで改憲の国民投票を待ってもらいたい。


(H30/5/4記)


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