井出薫
放送大学大学院で学習を始めて10年近く経つ。修士の学位は頂いたが今でも選科生として放送大学にお世話になっている。 10年前、学習の方法はテレビとラジオを視聴するか、学習センターでビデオを借りるしかなかった。放送時刻は仕事で間に合わない。録画するのは面倒で、毎週学習センターに通ったものだった。それが5年ほど前からインターネットで視聴することが可能になり、学習センターに通うことなく受講できるようになった。それ以来、学習センターに通うのは単位認定試験のときだけになった。 さらに、近年、オンライン授業が始まっている。そこでは講義を視聴するだけではなく、テストやレポート提出もインターネットで行なわれる。オンラインで学生同士、意見交換することもできる。その分、これまでのように通信指導や単位認定試験はない。テレビやラジオでの放送もない。だからオンライン授業科目だけを選択すれば、学習センターに通う必要は完全になくなる。テレビやラジオも要らなくなる。 放送大学の学生はほとんどが社会人で、学習に費やすことができる時間は限られている。テレビやラジオの放送時刻に合わせて仕事の割り振りをすることなどできない。地方だと職場や居住地と学習センターが遠く離れていることもある。だから、オンライン授業は多くの学生にとって朗報だ。また、これまで学習とは縁遠かった者も、オンライン授業科目の拡大で学習の機会を得ることができるようになる。 一方で、オンライン授業には多くの課題が残されている。高齢者にもインターネットやパソコンに詳しい者がいない訳ではないが、総じて不慣れな者が多い。今のところはオンライン授業よりも通常の放送授業の方が科目数は多く、さほど困る者はいないと推測される。しかし、これからオンライン授業科目数が増えることは確実で、高齢者対策が欠かせない。今のままでは、オンライン学習に恐れをなして学習意欲を失ってしまう高齢者が続出する事態になりかねない。 また、オンライン授業の登場で学習センターに行く必要がなくなったと述べたが、逆に言えば、学習センターで他の学生や教職員と接する機会が失われたとも言える。実際、10年前、毎週のように学習センターに通っていた頃は、図書室の職員とも顔なじみになっていたが、今ではたまに出掛けても知った顔は見当たらない。生涯学習には、学ぶ者同士や関係者のコミュニティ形成が期待されるが、オンライン授業はそれを阻害する要因になる恐れが強い さらにオンライン授業は科目登録した者しか受講することができない。テレビやラジオでの放送はないから、放送授業のように誰でも視聴できる訳ではない。これもコミュニティ作りを阻害する要因になる。 インターネットを使ったオンライン授業は大きなポテンシャルを持つ。しかし、同時に多くの課題を残している。そのことをよく考えて、オンライン授業を推進してもらいたい。 了
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