☆ 公平と配慮に欠ける韓国批難 ☆

井出薫

 近頃の報道をみていると、度が過ぎる韓国批難が目につく。右派や保守系のメディアの韓国叩きは以前からのことだったが、左派である文大統領が登場してから特に酷くなっている。一部では裏切りなどという礼を失した表現まで使われている。さらに、右派や保守系のメディア以外でも公平とは言いかねる韓国批判が増えているように感じられる。

 韓国の北朝鮮への対応に不満があるらしい。日米韓が共同して北朝鮮への圧力を強めるべきときなのに、韓国が北朝鮮にすり寄ろうとしていると批難する。それも、先に述べたように裏切りだとか、米国から敵視されているとか、言い掛かり、根拠のない主張としか言いようのないが批難、(と言うより)罵倒が目につく。

 韓国は米国や日本と異なり北朝鮮と境界線で接しており、戦争が勃発すれば直ちに大きな被害が生じる。首都のソウルは境界線から40キロしか離れておらず、戦争になればただちに大打撃を受ける。戦争を回避し韓国国民を守ることが文政権にとって最大の使命であり、対話の道を探り、人道援助を行うことは当然の行動であり批難されることではない。また不幸にして南北に分断されたが、朝鮮半島は本来一つの民族が互いに助け合って平和に暮らす地であり、韓国国民は、そして本音では北朝鮮国民も平和的な統一を望んでいる。その観点からも、韓国国民とその高い支持を受ける文大統領が対話と援助を行うのは当然の行為であり、それを日本がとやかく言うべきではない。

 米国や日本は、気楽に「制裁!」と強気に出ることができる。被害が及ぶ可能性が極めて薄い、いや事実上ないからだ。特に北朝鮮が米国を攻撃することは絶対にない。たとえ米国本土に到達する核兵器搭載のミサイルが完成しても、北朝鮮が米国を攻撃することはありえない。それは金政権の自滅を意味し、そのことは金政権も分かっているからだ。また日本も攻撃を受ける可能性はない。韓国と北朝鮮で戦争が起きれば、在日米軍基地からも戦闘機が北朝鮮攻撃に出撃をすることになるかもしれない。だが、今の北朝鮮は核兵器を持つものの、通常兵器の能力はさほどのものはなく、中国かロシアの助けがなければ在日米軍基地を攻撃することはできない。中国やロシアは北朝鮮に一定の支援を与えているが、両国とも北朝鮮から仕掛けた場合は北朝鮮を助けて米国と正面衝突する気はない。もし在日米軍基地に核兵器や化学兵器を使用すれば、やはり金政権の崩壊につながるからありえない。

 だが、窮鼠猫を噛むのたとえ通り、北朝鮮を追い詰めた時に、ギブアップするのではなく、乾坤一擲の勝負に打って出る危険性は残る。境界線を越え核兵器使用をちらつかせながら韓国側に侵攻することが絶対にないとは言えない。それを韓国はもちろん、北朝鮮と国境を接する中国とロシアも警戒している。中国やロシアが北朝鮮の制裁に乗り気薄なのは理解できる。両国とも制裁を強めれば北朝鮮が核兵器開発を放棄すると考えているのであれば制裁を強化するだろう。だがその見込は薄いとみている。さらに、日本はトランプ大統領の「日本を守る」との発言で安心しているようだが、必ずしもその通りになるとは限らない。米国世論は北朝鮮との戦争を支持しておらず、もし戦争になり、米国人兵士に死者がでれば、ただでさえ低いトランプ大統領の支持率はさらに大幅に下がる。そして3年後の大統領選での再選の目はなくなる。トランプ大統領もそのことは十分に承知しているだろう。それゆえ、世論の動向によっては、米国が一転して対話路線に転じ、日本が孤立することもありえる。米国は民主主義国であり大統領の意だけですべてが決まる訳ではない。その結果、日本が梯子を外されることも十分にあり得るのだ。韓国を批難するメディアは、韓国は危機感がないなどと言っているが、危機感がないのはむしろ日本の方で、選挙やゴルフにそれが如実に現れている。

 そもそも日米韓の同盟は、韓国国民が望んだものではない。かつての侵略者の日本との同盟は間違いなく本意ではないし、新しい支配者と言えなくもない米国との同盟にも反感を持つ者が多い。もし北朝鮮が核兵器を放棄し、対話が実現し互いに不可侵が約束されれば、韓国は北朝鮮、さらに中国やロシアに接近し、米日との同盟を解消する方向に動くだろう。歴史的な状況を考えれば、それは当然のことであり、もし日本人が韓国人の立場だったらやはり同じように振る舞うだろう。そしてそれは独立国の権利であり、日本にとって望ましいかどうかは別にして、日本があれこれ指図できることでも、するべきことでもない。

 こういった当たり前のことを、日本のメディアは理解していない。トランプ大統領を自国第一主義だと批判しながら、自分たちは日本第一主義に陥っている。韓国を批判するなと言うのではない。批判すべきは批判する必要がある。だが、外国のことを論評する際には、必ず相手の置かれている立場に十分な配慮をする必要がある。また、好き嫌いや、自説に都合がよい振る舞いをする国を褒め、そうでない国を貶すなどという公平を欠く論評は決してしてはならない。


(H29/11/19記)


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