☆ 温暖化対策の必要性 ☆

井出薫

 パリ協定から米国が離脱するという。しかし温暖化対策は極めて重要であり、トランプ大統領にはぜひ再考を願いたい。

 減ってきたとはいえ、温暖化懐疑論を唱える者は依然として存在する。実際、温暖化の証拠や将来の予測には不確実さが残っており、疑問を持つ者がいても不思議ではない。温暖化に関してはより一層の研究が必要であり、現時点での研究を完成されたものと考えるべきではない。しかし、それでも、温暖化対策は不可欠であり、そのための国際的な枠組みを決めたパリ協定の意義は大きい。

 ここで、温暖化対策が必要である理由を再確認しよう。温暖化論には不確かさが残っている。しかし、二酸化炭素が温室効果ガスであることは間違いない。二酸化炭素は、太陽から放射される絶対温度5千8百度の電磁波をほとんど吸収せずに透過させる。一方で地上から放射される絶対温度3百度の電磁波を吸収し再放射する。再放射された電磁波の半分程度は地上に向う。だから、二酸化炭素には温室効果があり、大気中の量が増加すれば温暖化をもたらす。

 ただし、地球というシステムは極めて複雑で、簡単なモデルでは具体的な気候変動を予測することはできない。二酸化炭素の増加で気温が上昇すれば植物や植物性プランクトンの光合成が増し二酸化炭素増加に歯止めが掛かる可能性がある。また温度上昇により水蒸気が増加し、それが大量の雲を作ると太陽光を遮り地球を寒冷化する。また、地球は氷河期と間氷期を繰り返しており、現在は氷河期に向かいつつあると考える者もいる。地球温暖化と言っても、地球全体が均一に温暖化する訳ではない。地球温暖化で海洋循環が変化し欧州は逆に10度程度寒冷化すると予測されている。このように、地球システムは極めて複雑で未来予測は難しい。

 だが、それでも二酸化炭素は温室効果ガスであり、それを打ち消す機構が存在することを確実に証明できない限り、温暖化を予想し対策を講じる必要がある。地球温暖化懐疑論者は、地球温暖化論者の研究のあら探しをして、それを否定しようとする。しかし、寧ろ、懐疑論者の方が二酸化炭素の排出が現状のまま続いても温暖化しないこと、あるいは温暖化しても環境に影響がないことを証明しないとならない。つまり、懐疑論者の側に寧ろ立証責任がある。しかし、それができた者はいない。

 温暖化が進み環境が大きく変化したとき、貧しい者が最も大きな被害を蒙る。富裕層は、いざとなれば、地上で最もよい環境の地域に移住し空調が効いた快適な部屋で過ごすことができる。しかし貧しい者にはそのようなことはできない。社会的公正のためにも温暖化対策は不可欠だと言えよう。

 さて、温暖化対策では先進国など排出量の大きい国の積極的な取り組みが不可欠であることは言うまでもない。しかし、それだけでは不十分で、経済発展に伴い今後排出量が増えることが予想される途上国の協力も欠かせない。しかし、途上国では経済発展が不可欠であり、大きな負担をさせることはできない。米国、中国、EU各国、日本などが二酸化炭素排出削減のための政策と技術開発を進め、途上国の経済発展と排出量削減を両立させるために必要な技術と制度を確立し、それを提供することが欠かせない。パリ協定は各国の自主的な取り組みに期待するもので強制力が乏しく、その有効性に疑問が残る。しかし、それでも、協定では、排出量が大きい国が積極的に削減に取り組み、同時に、技術支援などを通じて途上国の排出量削減に全面的に協力することが約定されており、その意義は極めて大きい。

 それを世界最大の経済大国であり、同時に世界最大の科学技術力を有する国である米国が拒否するのは無責任な行為と言わざるを得ない。しかし失望する必要はない。多くの米国民がトランプ大統領の判断は誤りと認識し、大統領に抗議をしている。いずれ米国の考えは変わる。日本は、米国民の良識を信頼し、同時に温暖化対策のための制度と技術の開発に努めればよい。


(H29/6/4記)


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