☆ テレワーク ☆

井出薫

 政府がテレワークを推進するため7月24日をテレワークの日と定めて、広く企業の参加を募っている。テレワークは仕事と介護や保育の両立を可能とし、地域の活性化や働き方の多様化にも繋がる。政府の取り組みに期待したい。

 しかし解決すべき課題も多い。特に情報セキュリティと長時間労働が大きな課題となる。行政や企業で個人情報などの漏えいが頻繁に起きている。テレワークでは、自宅や自宅そばのオフィスから、企業のサーバにアクセスして仕事をする機会が多くなる。当然のことながら、十分なセキュリティ対策を施さないと、漏えいが増える。情報漏えいだけではなく、行政や企業のサーバへのサイバー攻撃(たとえば、DOS攻撃など)も増える。それにより自宅からのアクセスが不可能になり仕事ができなくなることもある。また、人為的なサイバー攻撃や作業ミスだけではなく、大規模な自然災害や事故でも通信網が混乱し業務遂行に支障をきたすことがある。暗号化の徹底や監視機能の強化、通信経路の二重化などセキュリティ対策は進み、関連技術も進歩しているが、万全とは言い難く、大きな課題として残っている。また、テレワークを検討している行政や企業も、セキュリティ上の問題を解決できない限り、本格的な導入は難しい。

 もう一つの大きな課題は長時間労働だ。テレワークは通勤時間を他のことに使えるため余裕ある生活を可能とするように見える。だが、実際は、仕事が溜まってくると長時間労働の温床になる。出社して仕事をする場合は、退社により仕事は取りあえず終わる。外部からサーバにアクセスして仕事を続ける者もいるが、最近の働き方改革で退社後のサーバアクセスを禁止する企業が増えており、長時間労働対策は進んでいる。テレワークでも、サーバへのアクセス時間を制限することで一定の対策はできる。しかし、仕事が溜まってくると、データを一旦サーバからダウンロードし、ログアウトしてからもローカルで仕事を続ける者が出てくる。さらに、出社して仕事をしているときには、上司や同僚が当人の仕事の状況を把握できるから、業務分担を見直すなどして、過剰な負荷が掛からないように配慮ができる。また、本人が上司や周囲に仕事の分担を頼むこともできる。だが、テレワークだとそうはいかない。テレワークは余裕ある生活を保証する訳ではなく、下手な使い方をすると却って過重労働になる。

 他にも、職場の人間関係の希薄化、長時間端末を見続けることによる健康被害など憂慮すべき点は多い。それでも最初に述べたようにメリットは大きい。全ての業務をテレワーク化することは無理でも、テレワーク化可能な業務分野は少なくない。そういう分野で従業員の希望や心身の健康状態を確かめながら段階的にテレワークを導入し、問題が起きたら見直すという遣り方でテレワークを進めるべきだろう。パンデミックや大規模自然災害が起きたら、いやでもテレワークで業務を遂行しなくてはならなくなる。その時に備えるという意味でも、テレワークを推進することが望まれる。


(H29/4/23記)


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