☆ 核兵器の脅威 ☆

井出薫

 諸外国の批判や懸念を無視して強行される北朝鮮の核兵器開発には憤りを感じる。だが、どんなに声を上げても批判する側にも弱みがある。それは米国、ロシアなど国連の常任理事国がいずれも核兵器保有国だということだ。これまで国際社会の承認を得て核兵器保有国となった国は一つもない。では、なぜ米国やロシアの核兵器保有は容認され、北朝鮮の核兵器開発は批難されるのか。合理的な説明はない。ただ、それが現実だというに過ぎない。北朝鮮は非民主的で人権が侵害されているから駄目なのだという意見もあるが、それでは北朝鮮が民主化したら核保有は許されるのだろうか。許されないだろう。ただ民主化すれば核保有に反対し平和を求める市民の声が政府に届くようになり歯止めが期待できるということはある。いずれにしろ、筆者も北朝鮮の核兵器開発には反対であるが、核保有国の批判をしないで北朝鮮だけを批判している限り、ダブルスタンダードと言われても致し方ないことは認めるしかない。そのことをもちろん北朝鮮も承知している。だから強気に出る。報道では世界が一致して北朝鮮を批判しているようにみえる。しかし日米韓、それに欧州諸国などを除くと、国際社会の関心はさほど高くはない。多くの国が「北朝鮮だけを非難できるのか?」と考えているに違いない。だから北朝鮮への経済制裁も十分な効果がでない。日本だってイランの核兵器開発疑惑にはほとんど無関心だったし、石油が欲しくてイランへの経済制裁には及び腰だった。

 日本は核兵器を保有していない。しかし北朝鮮が核兵器開発をしても安心していられるのは、核保有国で世界最強の軍事力を誇る米国という後ろ盾があるからだ。北朝鮮が日本を攻撃したら米国の反撃で北朝鮮は壊滅的な損害を蒙る、だから攻撃してくるはずがない(と思っている)。しかし日米安保が解消され米軍が日本から撤退し日本が攻撃されても米国は反撃しないとなったら、それでも日本人は今と同じように鷹揚に構えていられるだろうか。ミサイルが日本の排他的経済水域に落下しても、「また遣ったのか」と言うだけで済ませていられるだろうか。おそらく日米安保が解消され、かつ北朝鮮が核実験を継続したら「安全保障のために日本も核武装するしかない」という意見が出てくる。近年の国内情勢を考えると、それが多数意見となる恐れすらある。だが日米安保が解消されたら核武装をするのであれば、日本には北朝鮮の核兵器開発を非難する資格はない。北朝鮮には日米安保における米国のような後ろ盾がないからだ。

 日本を含めてどこの国も自国の権益を優先して、他国を批判したり、他国から非難される自国の行為を正当化したりしている。だから核兵器開発を進める国を制止できない。政治的に困難というだけではなく、道義的にも困難なのだ。北朝鮮の核兵器開発も、北朝鮮が自主的に核兵器を放棄しない限り、止めることはできないだろう。

 それが現実なのだから仕方ないで済ませている訳にはいかない。これからも自国の権益確保のために核兵器開発を進めようとする国が複数出てくる可能性がある。先進国は原子力発電を世界に輸出しようとしている。原発と核兵器とでは技術的に開きがあるとは言え、原発が拡がれば核兵器開発の可能性も拡がる。だから今、核兵器開発を効果的に抑止する国際的な枠組みを作っておかないと大変なことになる。ソ連の崩壊で一旦は核戦争の脅威は後退した。だが今再びその脅威は拡がっている。抑止のための枠組みをどうすれば作れることができるか、筆者には分からない。だが、確実に言えることは自国の利益を優先する姿勢を改めることができない限り、それは不可能だということだ。


(H28/9/11記)


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