☆ ご都合主義 ☆

井出薫

 民進党は消費税増税の延期を主張、アベノミクスを失敗と断言し首相の責任を追及している。消費税増税を予定通り実施すると景気への悪影響が長期に亘ることが予想され、増税延期または凍結には賛成する。しかし民進党の姿勢は、選挙直前とは言え、余りにもご都合主義と言わなくてはならない。

 消費税増税を決めたのは当時の民主党政権の野田前首相だ。野田は「国民に迷惑を掛けて大変申し訳ない。しかし将来に亘り社会保障と福祉の財源を確保するためには消費税増税するしかない」と述べ増税を決断した。民主党政権は直後の選挙で大敗を喫し政権の座を明け渡し、その後も低迷を続け、維新と合流して民進と名を変えることになった。だが、増税の是非は別にしても、野田は正直に現状を国民に伝えたという点で評価してよい。「国債と地方債の発行残高が1千兆円を超え、財政は大赤字」という財務省の宣伝は、国債の所有者が誰かということや国内の個人資産の状況を無視した、増税正当化のための議論と言わざるを得ない。しかしプライマリーバランス(国債の償還額・金利額と新規発行額の差)が赤字続きであることは事実で、日本の財政状況が良くないことは否定できない。ここで消費税増税を延期または凍結しても、税あるいは各種保険料の引き上げは早晩避けられない。だから野田はそれを自らの手で遣った。

 それゆえ、安易に増税延期を求める民進党(旧民主党)の言動は、選挙目当ての無責任なものだとしか言えない。反対ばかりで現実的な対案を出さない昔の社会党の遣り方を批判し、現実的な政策を提言する責任ある政党を目指すとしていた旧民主党の志はどこに捨ててきたのか。一貫して消費税廃止を求めてきた共産党の方が遥かに責任感をもって行動している。

 アベノミクスは失敗だと言う。だがそうだろうか。確かに目標としたインフレ率2%は達成されておらず、景気もはっきりと改善したとは言えない。だがアベノミクス以来、企業業績が改善し、雇用状況が好転したことは事実だ。周囲の大学生に話しを聞いても「求人はたくさんある」と楽観ムードが拡がっている。事実、すでに内定し卒業前の海外旅行に出掛けている者もいる。円安効果で海外からの旅行客も急増した。アベノミクスは「成功とは言えないが、それなりの効果は出た」というのが公平な評価だと思われる。

 そもそも、民主党政権時代からアベノミクスと同等の政策を主張する者が民主党や民主党支持者の中にもいた。もし当時、日銀総裁が白川ではなく黒田だったら、民主党がアベノミクス(ハトヤマミクス?)を断行していた可能性は高い。現代の経済学では、景気対策には財政政策よりも金融政策が有効とされている。財政赤字が大きく、市中銀行が大量の国債を抱えている状況で、日銀が市中銀行から大量の国債を購入して市中銀行の貸し出し余力を高めるという政策は、ほとんど、誰でもが遣る当たり前の政策だと言える。特筆すべきは、その額が巨額だということ、インフレターゲット2%を明言したということだけだ。さらに、アベノミクスは失敗だというが、もし野党が政権を奪取したら、日銀が買いオペで国債を買うのを止めさせるのか。急にやめたら、金利が上がり、為替は円高に動き、景気が後退する危険性が高い。おそらく野党が政権を取っても愚かでなければアベノミクスを当面は継続することになる。安易な財政出動は財政赤字の拡大をもたらし、将来の大増税に繋がる。雇用の流動性を高める政策は、ドイツなどでは成功しているが、社会保障が脆弱な日本では労働者の生活にしわ寄せが行くだけに終わる可能性が高い。自由主義経済では、成長戦略は政府だけでできるものではない。要するに、そんなに上手い手はないのだ。

 民進党には、直近の選挙では、昨年の一連の安保法制の解消、憲法9条の堅持、近隣諸国との関係改善を軸に野党勢力を結集して闘ってもらいたい。経済、社会保障・福祉では、その具体策は増税策と併せて検討するべきで現時点で安直なスローガンを掲げるべきではない。政権獲得の可能性がないから呑気なことを言っているのだろうが、ご都合主義的なことばかり言っていると、政権を奪取したときに自分の吐いた言葉が跳ね返ってくる。

 自民党の一人勝ちはよくない。おかしな方向に憲法が捻じ曲げられる危険性も高い。だが、ご都合主義の民進党を積極的に支持する気にもなれない。共産党は一貫しているが、現実的にその政策が有益か疑問で、閉鎖的な党の体質が改善されているのかどうかにも疑問が残る。これが、筆者を含む多くの者の感想ではないだろうか。民進党は、今一度、自分たちが置かれている立場をよく考えて、政権戦略を立案・実行する必要がある。


(H28/5/22記)


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