井出薫
米国を巻き込んで南シナ海の領有権を巡って関係各国が争っている。尖閣の領有権問題を抱える日本も無関心ではいられない。 事の発端は中国の強引な海洋政策だ。関係各国と協議をすることなく、自らが一方的に定めた領有権に基づき人工島の建設を進めている。これでは周辺各国との軋轢は避けられない。またその拡張主義的な行動は戦前の日本とも重なり危険なものを感じさせる。 いまや中国がアジア一の経済大国であることは誰もが認める。さらに、その潜在的な能力は巨大で、いずれは米国に並び、超えていくことが予想されている。だからこそ、中国にはアジアのリーダーとしての自覚と責任が求められる。経済力や軍事力に物を言わせて、近隣諸国を威圧するような行動を取れば、この地域の平和と安定は損なわれる。中国は、この地域全体の平和と繁栄の鍵を握っている。 現在の中国は世界第2位の経済大国になったとは言え、国内には依然として多数の貧困層を抱えている。経済発展は続いているが13億の国民すべてを豊かにすることは容易ではない。地政学的にも、北に超大国ロシア、東に米国と同盟関係にある世界第3位の経済大国日本が控えており、決して安泰という訳ではない。経済発展に伴い共産党一党独裁体制が揺らいでくる可能性もある。共産党が安泰でも社会には様々な歪が現れてくるだろう。かつての、そして今の日本や韓国がそうであるように。 だから、今はまだ他国の平和や安定に気を配る余裕などない、という面もあるかもしれない。だが、米国と同様、中国と正面から張り合おうなどとする国は、少なくともアジアにはない。力を誇示することを控え、近隣諸国との対話を進め、共存共栄を目指すことは十分に可能だ。そしてそれで中国が失うものは何もない。得るものは調和の取れた平和と繁栄、アジア諸国からの信頼だ。逆に、もし軍事力に物を言わせるような政策を取り続けるならば、米国を巻き込んでの紛争が現実味を帯びてくる。日本国内では今のところ安倍政権が進める安保法制への批判が強い。数の力で法案を成立させることはできても安倍政権の手足は相当に縛られる。しかし中国が高圧的な態度を続け紛争が勃発するような事態になれば日本の世論も変わる。それは日本にとっても、中国にとっても何の益にもならない。そのような事態に陥らないよう、中国が政策を転換することを強く期待したい。また安倍政権に対しては中国を仮想敵国として扱うのではなく対話を進めることを求めたい。 了
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