井出薫
首相官邸屋上にドローンを飛ばした男性が威力業務妨害(容疑)で逮捕された。しかし、この逮捕は納得がいかない。 ドローンが落下したことを官邸の警備隊は検知できず、あとで見回りの時に発見している。従って業務妨害とは言い難い。その後警備強化を余儀なくされたが、そもそも不審物の落下をその場で検知できない警備に不備があり男性の責任とは言えない。ドローンには原発反対のメッセージが添えられていたものの爆破や殺害などを予告する文言はない。従って男性の行為が「威力」(又は「偽計」)に該当するとは言い難い。いずれにしろ、威力業務妨害罪を適用することには甚だ疑問がある。 男性が、首相など官邸に出入りする者に危害を加えることを意図していたのであれば、脅迫罪が適用できるかもしれない。しかし男性は、安部政権の原発政策への抗議を目的としており、他人に危害を加えることを意図していない。それゆえ脅迫罪は成立しない。 一つ間違えば放射性物質を含む土をばら撒くことになったかもしれない。ドローンが人の上に落下する危険もあった。それゆえ、男性の行為を肯定する訳にはいかない。しかし、逮捕する根拠があるとは思えない。威力業務妨害罪の適用は、他に逮捕する名目がなかったからだろう。これでは「まず逮捕ありきだった」としか言いようがない。 報道が男性の逮捕に異議を唱えないことも解せない。逮捕に異議を唱えたからと言って、男性の行動を支持することにはならない。政府批判をしていることにすらならない。報道として一番大切なことは、警察を含む権力者の行動を厳しく監視し、市民の権利を守ることだ。男性の行動が正しいものではないからと言って、合法性に疑義がある逮捕を黙認することは許されない。 自民党がNHKとテレ朝を呼びつけるなど、安部政権の下で言論の自由、表現の自由、政府など公権力へ抗議する自由が脅かされつつある。安部首相や自民党が独裁体制樹立を願っているなどとは思わない。だが市民と報道が公権力への監視の目を緩めれば、独裁への道が始まることがありえる。漫然と事件を眺めているのではなく、そこで繰り広げられている様々な出来事を批判的に吟味することが欠かせない。 了
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