井出薫
10月31日、日銀が追加の金融緩和を決め、円が急落して株価が高騰、その効果は日本国内に留まらず米国にまで及びダウ平均株価を押し上げた。さらに追加の景気対策、年金運用での株式の割合増加などの施策が打ち出されている。しかし、これで本当に景気が回復し人々の生活が良くなるのだろうか。 幾つか疑問がある。今回の決定は、インフレ率2%という目標が、消費税増税後の景気回復の遅れで達成が難しくなったことが背景にある。これは一連の金融緩和策が期待した効果を上げていないことを意味している。だとすれば、更なる金融緩和を実施しても、その効果は来年10月からの消費税増税により相殺される。消費税増税を延期することが考えられるが、増税しなければ今度は財政が苦しくなる。安倍政権は景気回復と財政再建の二兎を追うと公言しているが、無理があるのではないのか。 大企業の業績は好調で、中間決算発表では好成績を示す数字が並んでいる。ところが市民生活が改善された気配が感じられない。企業の業績が良くなる→賃金上昇で可処分所得が増える→消費が活発になる→企業の業績が更に良くなる、こういう好循環が生まれていない。それも無理からぬことで、税や保険料負担は増加し、団塊の世代が現役から退き年金生活に入り、非正規雇用労働者が増加し続けているのだから、消費を増やす余力がある者は限られている。これでは好循環が生まれないのは当然と言わなくてはならない。一連の経済政策はこの問題を解決するものとなっているのだろうか。 そもそもインフレ率2%という数字にどれだけの意味があるのか。1%や3%では駄目なのか。2%という数字に意味があるのではなく、マクロ経済学的な政策で、インフレ率を制御できるか否かが問題なのだという意見がある。つまり、ここで首尾よく2%という目標が達成され且つ景気が回復すれば、この先も不景気になった時に同じ政策が使えるという訳だ。だが、経済は常に変化しており、4半世紀前の政策がすでに時代遅れになっている。だとすれば、今回成功したからと言って同じ政策がこの先も使えるという保証はない。また、インフレ且つ不景気という状況も存在しうるから、インフレ率だけで景気を論じることはできない。要するに、たとえ今の日本で景気回復に成功したとしても、インフレターゲットと大規模な金融緩和が景気回復の特効薬となる根拠にはならない。 他にも、円安は本当に日本の利益になるのか、インフレで生活が苦しくなる年金生活者への対策はどうするのか、など多くの疑問や課題がある。 いずれにしろ、一連の経済政策が経済を改善する保証はない。だからと言って他に策がないからアベノミクスに期待するしかない。これが今の日本の現実だ。だがこれでは如何にも心許ない。短期的な成功が長期的な破綻に繋がらないことを祈りたい。 了
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