☆ 痛みへの対処 ☆

井出薫

 うつ病になると心だけではなく身体も変調を来す。心の症状が目立たず専ら身体症状だけが前面にでるうつ病もある。特に目立つ症状として疼痛が挙げられる。ところが、うつ病の痛みでは精密検査をしてもどこにも悪いところが見つからない。悪いところが見つからないことからうつ病が疑われ、精神科でうつ病と診断されることもある。

 うつ病での疼痛はよく知られた症状で、精神科医ならばうつ病患者の訴えを理解する。しかし痛みそのものをすっきりと解消する方法はない。患者とのコミュニケーションを通じた心理療法は有効だが、痛みへの対処法としては限界がある。だからたいていの場合、抗うつ薬の効果が現れるのを待つしかない。

 高齢者が増加しストレスが増大している現代、うつ病だけではなく原因が定かでない痛みに悩む者はこれからも確実に増えていく。ところが現代医学は原因がはっきりしている場合は大変な威力を発揮するが、原因不明の痛みなどには十分な効力を持たない。そのことが有効性の根拠が乏しい民間療法が蔓延る原因にもなっている。

 怪我の程度が同じなのに強い痛みを訴える者とそうではない者がいるように、痛みは主観的で客観的な評価が難しい。しかし痛みは専ら主観的なものというわけではない。丹念に問診を行い、患者に様々な刺激を与えることで痛みの度合いや持続時間を評価し、それを基に身体への直接的な働きかけを含めた様々な方法で痛みの緩和を図る。こういう試みにより患者の苦痛を大幅に軽減できる。

 確かに、患者の数が多すぎて一人の患者に長い時間を割くことができないという切実な課題がある。医療関係者の数も足りない。しかし問題を医療関係者だけで解決しようとすると無理があるが、患者の家族、友人、職場の同僚など患者の周囲に居る者たちに適切なアドバイスを与えて治療に協力してもらうことで事態の改善が期待できる。そうすることで自分は孤立していないと分かり患者自身の気持ちも明るくなる。

 痛みは自分にとって辛いだけではなく周囲も暗くする。痛みを上手く制御することは、社会全体を明るくするうえで欠かせない。そのために医療関係者を中心に、広く一般市民が協力して良い方法を考え出していくことが望まれる。


(H25/11/2記)


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