☆ 防災の備えを ☆

井出薫

 10月16日午前、台風26号の暴風雨による土石流で、伊豆大島で10名以上の方が亡くなった。心からご冥福をお祈りする。また行方不明の方たちが一刻も早く無事に救助されることを心からお祈りする。

 若い頃、釣り好きの友人に誘われて何度も伊豆諸島を訪れた。民宿の御夫婦と娘さんたちの素朴で優しい人柄に打たれて神津島を訪れることが一番多かったが、東海汽船の出発地である竹芝桟橋から一番近い大島にも何回か宿泊させてもらった。もう20年以上訪れていないが、毎日都会の喧騒の中で暮らす者にとっては楽園だった。あの楽園でこれほどの痛ましい災害が起きるとは想像もつかない。

 台風銀座の伊豆諸島では住民も行政も台風の性質とその恐ろしさはよく知っている。長年の経験と気象庁の予報を頼りに人々は台風の到来に備えている。しかし、今回の台風は進行が速く雨量が記録破りだったため、十分な備えができなかったのだろうか。

 記録破りの豪雨だったのは事実だが、3年前に発生した奄美大島の豪雨以来、各地で記録破りの豪雨が続発しており予測できなかったとは言い難い。気象庁の台風の進路と風雨の予測は非常に精度が高いものだった。突然襲ってくる地震と違い台風の場合は防災のための事前準備を行う時間がある。特に今回は精度の高い予報が出ていたのだから尚更、これほどの犠牲者が出たことは残念でならない。特別警報を出さなかったことで気象庁を非難する向きもあるが、気象庁は適切な情報を地元に提供していた。実際、地元の警察署が3時過ぎに、大島町に対して住民に避難勧告を出すことを要請している。要請された町長は夜間の避難は危険で被害を拡大する恐れがあると判断し拒否したと説明している。確かにこの時期午前3時から4時はまだ暗く、強い雨が降りしきる中で避難することには危険が伴う。不夜城の東京都心部とは異なり、伊豆諸島ともなると夜は本当に暗い。歩きなれた道でもいつ脚を取られて事故になるか分からない。だから警察の要請を拒否した町役場の対応を一概に非難することはできない。ただ、それ以前の措置が十分ではなかったように思える。前日15日に土石流の危険性がある地域の住民が緊急避難するための準備をしておけば、被害を最小限に留めることができたのではないだろうか。

 いずれにしろ、伊豆諸島だけではなく日本全国どこでも、同じような災害は起こりうる。今回の災害を教訓に、自治体、国、その他関係各位が協力して、リスクの点検を行い、強固な防災体制を確立してもらいたい。最後に今一度、亡くなられた方のご冥福と、行方不明の方が一刻も早く無事救出されることを心からお祈りする。


(H25/10/16記)


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