井出薫
8月31日付の日本経済新聞朝刊で、KDDIが来夏からデータ通信速度220Mbpsの携帯電話サービスを開始すると報じられている。 しかし、220Mという速度は携帯電話端末と端末が接続される携帯電話基地局の間の無線区間での理論的な最高値に過ぎず、実際のデータ通信速度はこの数値を大幅に下回る。しかもこの速度は、同一の基地局経由で通信する端末数が少なく、かつ基地局から携帯電話会社の局舎に設置される交換設備を接続する中継回線が混雑していないときにだけ実現されるものでしかない。新サービス導入当初はサービスの利用者数が少なく高速通信ができるが、利用者が増えてくると速度が落ちてくる。100Mのオーダーの最高速度を可能とするLTEという通信方式を他者に先駆けて提供したドコモでは、最近同方式の利用者が急増し速度が低下、利用者から苦情が出ている。 同じことが、携帯電話ほど顕著ではないが、固定電話を提供する通信会社でも起きている。10Mから1Gの最高速度を誇る光回線サービスでも、実際のデータ通信速度はこの数値には届かない。また固定でも利用者が増えると速度が落ちてくる。つまり、皮肉なことに、実際のデータ通信速度と通信会社の利益は反比例する。利用者が増えれば利益は増えるが速度は低下するからだ これらの数値が理論上の最高速度でしかないことはきちんと周知していると通信会社は言う。「ベストエフォート」(公表値は理論上の最高速度であり、実際のデータ通信速度を保証するものではない)という便利な言葉で自らを正当化し、通信会社は実際のデータ通信速度を公表しない。確かに、場所や時間、通信相手先によって実速度は異なり通信会社ですら正確な数値を把握することはできない。そのため社員や関係者を動員して各所で実速度の計測を行っている会社もある。そして競合他社に勝っている場合は鬼の首を取ったようにそれを大宣伝し、負けている場合は沈黙する。 利用者に、実速度が公表値に及ばないことを周知していると言っても、10M程度の速度しか出ないサービスを、75Mだ、100Mだという大見出しで売るのは商習慣から言っても適切ではない。業界で共通のルールを作り実速度に近い数値を公表するか、法令等で公表を義務付けるかして、利用者に実際の(平均的な)通信速度を知らせるべきだ。私たちの知りたいのは実際にどれくらいの速度で通信できるかであって、設計上の最高速度などではない。データ通信の重要性は近年飛躍的に高まっている。通信会社には、正しい情報を利用者に伝える義務がある。 了
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