☆ 猛暑と都市 ☆

井出薫

 日本列島、猛暑日が続いている。NHKのニュースキャスターが語っていたことだが、これほどの暑さになると災害だと言っても過言ではない。

 地球温暖化の影響なのだろうか。もしそうだとすれば大変なことになる。近い将来日本は熱帯地方並みの暑さになり、今の住環境では夏を過ごすことができない。だが長期的に見れば温暖化は避けられないとしても、急に2度も3度も暑くなることはない。今年が例年になく暑いのは短期的な気候変動によるものとみるのが正しい。だが、ここで考えなくてはならないのは、都市の環境が暑さを倍増させているという事実だ。

 暑い夏は夕立も多い。雨が土の大地に降り注げば、大地を冷やし、気化するときに蒸発熱で周囲の熱を奪っていく。それで雨の後は夏場でもひんやりする。ところがアスファルトに囲まれた都市では雨はすぐに下水道に回収され大地と私たちの周囲の空気を冷やすことなく海に戻ってしまう。だから雨が降っても大して涼しくならない。

 さらに都市は人通りが多くて余計に暑くなる。新宿や池袋などでは道行く人々の熱気で周囲の空気が加熱される。雨の問題だけではなく人口過密が暑さをより一層耐えがたいものにしている。

 半世紀前の筆者が小学生のころでも、東京が35度を超える猛暑に見舞われることは度々あった。ところが暑かったという印象が余りない。元気いっぱいの子ども時代は暑さを感じないと言われるかもしれないが、そうではない。そんな猛暑日でも、すでに齢80を超えていた祖父と祖母は別に辛そうなそぶりも見せずに元気に働いていた。半世紀前の東京はまだ自然が多く残り、エネルギー消費は少なく、暑い夏でもエアコンなどなくても過ごすことができた。それが半世紀で様変わりした。

 いまの都市は綺麗で便利だ。しかも多くの災害に対応できる。しかし自然に乏しく猛暑には上手く対応できない。だから人々は夏になると建物に籠りエアコンに頼って暮らしている。しかし、今年の夏を考えると、それにも限界がある。温暖化に伴い猛暑に襲われる夏が増えていくことは間違いない。人口過密の解消や自然の再生などを通じて、早期に猛暑へ適応できる都市環境を整備することが求められている。


(H25/8/11記)


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