☆ 震災後、2年 ☆

井出薫

 東日本大震災から2年、その傷跡は依然として癒えていない。しかし、報道が特集などを組んでいるにも拘わらず、人々の記憶から痛ましい災厄は背景へと後退しつつある。

 忘却は人の重要な能力の一つだ。恐怖や失望にいつまでも囚われていたら前には進めない。忘れることで明るい未来を思い描き、力強く前進することができる。特に子供たちはそうだ。時にそれを思い出し、行動の指針にすることは必要だが、普段は、それは遥か後景へと退いていた方が良い。同じように、楽観的であるということも重要な能力だ。そのおかげで首都直下型大地震が4年以内に75%の確率で起きると報じられてもパニックにならないで済んでいる。

 しかし、復興が遅々として進んでいないことは事実で、いずれ訪れるであろう巨大な自然災害への備えもできていない。それにも拘らず、被災地へのボランティアは激減し、復興や防災、減災は景気対策の一環に縮小している。これでは甚だ心許ない。

 本能は、不幸な記憶を抑制し楽観的に力強く生きる術を与える。一方、知恵は、様々な外部の記録媒体を活用して、記憶を整理・体系化して、過去を反省し、現在を改善し、未来へ備える。一人一人は、本能に従い、不幸な記憶はさらりと忘れ前を向いて力強く歩んでいけばよい。しかし、家族や財産を失い精神的な衝撃を受けた者に前を向いて歩けと言っても無理がある。だから、社会は知恵を用いて、被災地、被災者を継続的に支援し、復興を加速し、さらに将来への備えをする必要がある。景気が芳しくないと言っても、そのくらいの体力は世界3位の経済大国日本には十分ある。後は知恵を如何に使うかだけだ。いずれにしろ、一日も早く、被災地が復興し、被災者の心身の傷が癒えることを祈りたい。


(H25/3/11記)


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