☆ 継続は力なり ☆

井出薫

 円安株高で景気回復の兆しが見えている。先は未だ不透明とは言え、日頃自民党に批判的な筆者の目からしても、ここまでのところは安倍政権が巧みな政権運営をしていると認めざるを得ない。

 民主党と自民党とどこがそんなに違うのか。キーワードは「継続」だ。民主党も金融緩和を進めてきた。財政難の折、金融緩和は景気対策として最も有効な手段だ。だが民主党は景気が良くなるまで継続して金融緩和を続けると一度も宣言したことはなかった。だから民主党政権は国内外から本気で景気回復を目指しているのか疑われた。その結果、折角の金融緩和政策も功を奏することはなかった。一方、安倍ははっきりと2%のインフレターゲットを定め目標達成まで金融緩和を「継続」すると宣言した。「安倍は本気だ」と国内外から評価され事態は好転した。正に「継続は力なり」だ。

 社会現象は自然現象とは違う。人々の期待や予想が社会現象を作り出す。株が上がると皆が予想すれば株を買うから株価は期待通りに上がる。政権交代が実現すると人々が予想すれば、次の政権へと人々はなびく。すでに総選挙前からメディアを含めて人々の足は野田ではなく安倍に向かっていた。そして予想通り自民党が政権に復帰した。

 規制緩和が進み、経済がグローバル化したことで、期待や予想だけでは上手くいかないことが増えた。国内で株価が上がると皆が信じて株を購入し短期的に株価が上がったが、リーマンショックで株が暴落、多くの者が大損をする、などということが普通に起きるようになった。だからどこの国の市民も、自国の政策だけではなく他国の政策にも注目せざるを得なくなっている。とは言え自国の政策が一番大きな判断材料であることに変わりはない。

 人々が期待を抱くためには、政策の継続性と、継続をトップがはっきりと宣言することが欠かせない。これは国だけではなく企業でも変わらない。経営者がぶれることなく一貫した姿勢を示すことで、従業員は目指すべき方向性を認識し企業の活力が向上する。

 ただし目指す方向が間違っていると逆に大きな打撃を受ける。野田も消費税増税に政治生命を賭けると宣言し党内外の反対を押し切って実現した。野田もまた責任をもって自らの意志を継続した。野田は批判を浴びたが、腰砕けになることなく困難を乗り越える姿勢を評価する者は少なくない。だが野田は目指すべき方向が間違っていたと思う。野田首相就任時の社会情勢を考慮すれば、野田は先ず安倍のようにデフレ脱却に政治生命を賭け、デフレ脱却時に社会保障と一体の税制改革を実行するべきだった。それは消費税増税を行うより、より困難な課題で、在任中には実現できなかったかもしれない。しかし法律制定まで行かずとも、その道筋をつけることができれば民主党があれほど大敗を喫することはなかったし、党内分裂を招くこともなかった。

 正しい方向を選択し、継続すること、それは難しいことではある。安倍の政策が本当に正しいかはまだしばらく様子を見ないと判断できない。既存の遣り方を継続することは容易だが、改革を継続することは既得権益を有する者と異論を唱える者からの激しい抵抗に遭遇する。しかしこの困難を引き受ける覚悟を持ち、それを突破する力がない者にはトップの座は務まらない。このことをトップに立つ者、それを目指す者、それを選ぶ者は決して忘れてはならない。


(H25/2/23記)


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